元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
「日本の神さま」おもしろ小事典

 え、詳しい。
多項目の割に、専門書で見るような話まで超凝縮でさらっと書いている。…や、やるなぁ…。
 面白と言うより、普通に『超特急で見る、現在民俗学、神仏のあれこれ』と言う感じのまともなガイドブックですよ。
文章も柔らかく読み易いし。
 恐らく書こうと思えばそれぞれの項目で何冊も本を書けそうな知識量なので、それだけ膨大な知識を、まとめて簡単に説明と言う、とても贅沢な本だと思います。
 良本。
山の神と日本人

 ゆっくりと山に浸る時間。
 私はそもそも海よりも山と言う人間なので、環境的にも、精神的にも山に惹かれます。
神様も同じく。海の神様より山の神様により畏怖や敬虔な気持ちを持ちがち。(畏怖と言う意味では海は怖いんだけどさ。)

 山の神、と簡単に言いますが、それは女だったり男だったり、はたまた異形だったり、色んなものが山の神として銘打たれています。
日本で、果たして山の神と言う存在は一体どのようなものであるのか?
 改めて耳を傾けてみたい。

 山の神は春に山から下りてきて田の神になり、収穫を終えると再び山へ帰ると言われていますが、そもそも農民たちの山の神と、山人の山の神ではやはり性質も異なる様子。
 色んなシチュエーションの山の神が説明されているのですが、本当に民俗学宜しく、どうやって聞き集めたのかともう程のマイナー情報だらけ。
 ただ情報が多すぎて、それを系統立てて整理出来ているかまではちょっと微妙。何せ把握しにくい。
最初の一歩として山の神が女なのか男なのかも謎だし、結局は地方の祭り方の数だけ山の神が居るわけで…。
 その意味で、各章で個々としては読めても全体としてはあまりに広大なフィールドのため、秩序だった『山の神大全』にはなっておらず。
あくまでも日本人(地方それぞれ)の山の神の接し方を羅列したものと言う印象。
 ふむ…答えの出ないものの解説ってちょっと座りが悪いもんだな。
しかしそこら辺は著者も理解の上、むしろまとめようとしたらあまりにもたくさんの山の神の形が在って、従来の簡単なイメージでは済まなくなったとあります。
いっそ遠野物語的拾遺譚とした方が馴染深いかも。
それだけおよそいろんな山の神の逸話が読めます。

 山の神は謎のまま。多面性を知る、そんな一冊でした。
霊能動物館

 安定の求心力、加門七海。
今回は動物にかかるお話を揃えているという事で、もうなんか、この人のは仮に地雷があろうが基本的に筆力の高さとぶれない作風で読んじゃうんだよなぁ。
 あ、地雷と言うのはオカルト系特有の、『伝聞形式の話はまぁなんとなく聞いていられるのに、本人の体験談になると何故かいきなり一歩引いちゃう』って言う説明出来ない感覚です。
 何故だ?都市伝説や噂の伝播は文化だが、そうと思い込む体験談には眉に唾付けちゃうからか?
おっと眉に唾なんて、これこそオカルトだ。

 そう、私たちは理性的であろうとしても迷信や恐怖、良心に振り回される。
今回はテーマが動物。
普段世界の頂点を人間としていながら、動物と言う存在に私たちが何故敬い、恐れ、奉るのか―。
この点を掘り下げ、オオカミや狐、カラスに蛇…色んな動物毎にテーマを区切り、さすがの大系を語ってくれます。
 そこには故事から始まり、現実的に人間を襲う等といった一目置かざる得ない状況がまず、ある。
或いは人の役に立つが故、語られるもの。
 人間との関係の中で動物は『語らざる得ない』愛憎の対象となり、強い異能を持つものは、良いものも悪いものもひっくるめて神や霊と考える日本人の心の中にしっかりと根付きます。
 それぞれの関係性がどういう伝播となり、霊験あらたかな属性と繋がるのか、さすがの知識でどんどん繋いでくれます。
ここら辺はもうわざわざ調べなくてもこの人の中で幅広いオカルト知識が網の目の様に繋がっていくんだろうね。
 昔話とかの例もたくさん披露してくれて面白かった。オカルト知識と言うだけの話じゃなく、歴史的な逸話なんかは単純に博識なわけですよ。
 また各地の信仰体系。
犬や狐の辺りはやっぱり濃厚に根付いていて、ぞくっとするものもある。

 基本的に恐ろしい霊異譚の中で、動物と言うちょっとほっこりしたテーマな分、気持ち軽めには読めるのだけど、内容はとことん充実、濃いお話。
民俗学とかの軽めの論文をそれぞれの項ごとに読んだ気にさせてくれた一冊です。
オカルトの帝国

 一作者じゃないのね。
何章かに分かれて、それぞれがオカルト全盛期の70年代を語る本。
各々得意分野は違うようで、切り口もアニメやTV、UFOや超能力と、色々です。
 ただどの章も、文献やデータは丁寧に集めているし、学術的な論文を読んでいるかのような内容。
随分と本気路線の様です。

 さて論文調と言いましたが、それ故に断言が多くて、正直そう思えるものも有ればまったくそう思わないものも有り、書く人によって随分評価が分かれる所です。
 この手の物は、決してこの著者が合ってる間違っているではなくて、お説を唱える一人一人に『形』があるので、視野が広がる事はあれども、なかなか真実らしきものには確信を持てぬ事が多くなりがちです。
船頭多くして…にも似たり。
結局は自分の考えを基準に測っていくしかない世界ではあります。

 序文の、『オカルトとは現在社会の毒素を薄めるものだ』と言うくだりは、うなずく所が多いものでした。
オカルトとは、渦中に居ても現象が不思議、外から眺めていても人の動きが不思議、心惹かれる人が多くいても、まったく不思議でない事象ですね。
オカルトまゆつば論

 え、こんなはっきり。
ここまで古く騒がれブームになったオカルトを『いや、それ嘘だから』ともう言われていた事をまとめてくれている本があったなんて。
 ネットですら『あれは実は真相はこう、作り物』とかちらほら見れるはずなのに、それでもこの本で当時のカラクリをはっきり知れたオカルトがいくつかありました。
やだ、楽しい。
 偽物の有名どころ、ミステリーサークルだとか、ネッシーの死骸だとか、勿論知れた話もたくさん載ってますが、『当時のこれとごっちゃにされた』とか『○○が犯人』とか、こうしてオカルトは作られた的な詳細が聞けてワクワクです。
そもそもの紹介案件が数多いのも嬉しい。
 ひとつひとつはさらっと流してて、え、そこん所もう少し詳しく!と思うような多少反証側の信憑性を疑問に思う部分もあるけれど、詳細は自分で調べると言うお楽しみもある。(『現象』についての証拠は是も非もどっちにも同じくらい求めてこそさ。)
広く浅いけど、簡潔に必要な所を載せてる感じ。

 いや、不思議がないと世の中がつまらなくなる、無粋だとか言う人は多いけど、心配しなくても自分の脳内の事からして不思議でいっぱいなのに、この世から不思議はなくならんよ。
 むしろこの手の蒙昧を把握するミステリー、世間への伝播性を面白く思ったり、仕掛け人がいるならそのやり口の巧さ、あるいは集団で尾ひれを付けていくアイディア性、そこら辺を楽しむ事もオカルトの楽しみ方の一つだと思う。
キャー、怖い!派も実際はこうだな!派も、結局どっちもオカルトが好きなんだよね。
 暴いても暴いても、それでも解かれない謎もあるし、そもそも信じるかどうか。

 この本を読んで私にとってオカルトが、世の真実だとかどうか問う『思想』なんじゃなくて、単なる考えて時に怖がって楽しもう『趣味』のジャンルの一つなんだと、腑に落ちた気がします。