元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
旅のくつ屋がやってきた

 旅のくつ屋がやってきて、宿屋の息子の主人公は、彼と仲良くなるのだけれど、くつ屋は何かしら怪しげな行動をとっている。
町のあちこちを調べてはメモを取って―。
 もしやくつ屋はこの街を襲おうとしている盗賊で、下調べをしているのではないか、と町の住人は思います。
 このあらすじだけでは、大体それは何かしら誤解で、くつ屋は逆に凄く良い事をしていたり、あるいは不思議な力を持つ妖精だのの類で、最後にハッピーエンドと言う…のを私は予想していたのだけど、これが結構とんでもないシリアスな話で。
道徳の授業かと言うくらいに、考え込まざる得ないシーンがたくさん出て来るのです。

 まず、実はこの町の半分の住人は、実際にかつて盗賊に町を襲われ逃げてきた人々。
放浪に放浪を重ね、ようやくこの町だけが彼らを受け入れてくれたので、この町に迷惑はかけたくない。
 主人公の父親、宿屋の親父はこうしてこの町に入ってきた住人達側。
主人公は初めてそれを知る。
 そしてその逃げてきた人々は、もしこの町を盗賊が襲いに来たら、自分たちがこの町を守ると固く決意して日々気を付けて怪しいやつが居ないか見張っていた。
何故なら盗賊たちは、逃した住人を追い続けているから。

 え?なんで追われてるの?と思いきや、実はこの住人達、結構知恵者かつ転んでもただでは起きない人たちで、町を襲われた際に首尾よく先に町を放棄して出て行って、盗賊らが町で祝杯を挙げている最中に上流のダムを決壊させ水攻め、盗賊の大半を殺してやっつけているのです。
 自業自得の上、賢い自衛行為だったと思うのですが、盗賊は逆恨みで、何十年かかっても住人らを探し当て、復讐してやると追いかけてきているらしいのです。
 だからくつ屋が盗賊なら、仲間を呼び寄せるだろうから、それを阻止せなばならない。
 主人公はすぐに、それはくつ屋を、この町から生かして出て行かせられないと言う意味だと気づく。(相変わらずただでやられない意気込みですが、まぁ頭がお花畑過ぎて略奪や暴力に晒されてもね…。
 地続きで土地を取り合っている歴史が繰り返されているような国だと、当たり前の考えだと思いますし、そういう下敷きがあるのかな?と思ったのですが、あら、普通に日本人の作品でした。ちょっと珍しい展開だな。)

 主人公及び、一部の人は穏健派で、とりあえず盗賊と同じ様に罪のない人を襲うのはいただけないと、くつ屋が一番心を許しているであろう主人公に、『くつ屋が白か黒か』判定してもらおうと相成る。
今度こそ白判定かと思ったのですが、お話はまさかの黒に近い灰色の流れに―。
 凄い展開です。

 くつ屋はしかし、盗賊の命令で何十年も住人たちを追ってきたが、いつしか盗賊の里も消え、自分が何のために旅をしてきたのかわからなくなった。そしていつの間にか自分はくつ屋に『なっていた』のだと少年に告白します。
 しかしそれは物語として巧妙に聞かせたもので、少年は正面切ってくつ屋が盗賊かどうか、聞くに聞けなくなるものでした。
 はっきり言って会話の内容は、もうくつ屋が盗賊だと言っているわけですが、この話に嘘があって、盗賊達はまだ生きていて襲ってくるのか、それともくつ屋は盗賊を止めてくつ屋として生きて行きたいのか―ここら辺を主人公は正面切って探り出す事も出来ないがんじがらめの状況に陥ります。
 恐らくはくつ屋自身、主人公にすべてを任せ、裁かれる事を望んだのかもしれません。
 次の日、何もされずに住人たちに旅に見送られるくつ屋。
くつ屋はきょとんとして、見送る方、見送られる方、お互い複雑な気持ちで別れるのです―。

 これ、お互いがお互いを探り合いながらのエンドなんで、決してハッピーエンドじゃないんですよね。
私はてっきり、くつ屋になりたいと言う男を、この町に迎え入れると言う最高ハッピーエンドになるんじゃないかと一瞬思ったのですよ。
 ところが、それはなくただ、放免されたのみ。
もしかしたらこの後盗賊が来るかもしれないし、来ないままかもしれない。
 くつ屋はこの先どこに行くのか?果て無い旅に絶望しかけていたくつ屋に、住人は少なくとも安住の地を与えませんでした。
 或いは、盗賊たちは生きていて、ただ、この街の住人が今も気を許さずに盗賊の事を見張っていると知り、復讐をあきらめた―?
この、縁の断ち切り方と言うかぷっつりと終わった話って、非常に不安を誘います。
本文自体に、『どうなったか解りません』として終わっているんだもの。
うわー…。
 この作品、ところどころに闇が落ちてるよ。

 そんな中、それでも主人公の心根は素直で、この状況や出会い、周囲の人間すべてへの気遣いや心苦しさ、そんなものを胸に揺らがせながらストーリーを進ませました。

 後味が凄く残る本。
これは何歳で読むのが妥当なんでしょうね?大人が読んでも心ざわつく本だよ。(一応小4くらいが対象の様ですが…。)
クロティの秘密の日記

 タイトルからは及びもつかない、主人公である奴隷の少女の日記と言う体裁の本です。インタビュー云々、実際に実在した人なのか、それともそう言う設定の本なのか不明ですが、時代背景だけは本当。(って、もっともらしく引っ張ってたけど、やっぱりフィクションか。解説でなくきちんと作者本人が前書きか後書きでフィクションなのかそうでないのか書いてくれないと勘違いや歴史捏造が起こりそうでヤダわ。この手のノンフィクション風作品のおかげで、最初から疑ってかかるようになってしまった。)

 アメリカ南部の奴隷制度の時代、奴隷は読み書きを禁止されており、もし文字を読めたり書けたりしたら、とんでもない罰を受ける。(鞭打ちはあるとしてその後追放なのか、まさか殺されたり…はないと思うけど、もっと酷い所に落とされるのは確実。)
 主人公は読みたい、書きたいの思いが強く、たどたどしい言葉で、日記を綴ります。無論ばれたら終わりですから、一人でこっそりと。
 誰にも言えず、でも嬉しさや誇らしさで、ふと誰かに自慢げに喋ってしまいそうな緊張感がこの本の始まりにはありました。(実際、主人公は文字の素晴らしさを、言いたい気持ちで表している。)
 それでも、主人公は『何故ご主人様たちは私たち奴隷が文字を使うのを嫌がるんだろう、何を怖がっているんだろう』と物凄く的確にこの事を捉えています。何かを支配するには知恵を与えたり、伝聞して団結させたり、そう言うものが大きな力になってしまうという事を、感じ取っているんでしょうね。
 今はまだはっきりとわからぬ主人公ですが、とにかく黙っていなきゃと察してはいるようで、文字(日記)の秘密を守り続けます。

 この主人公が賢いのは、そういう思考の部分だけでなく文字に対する学習能力がそもそも高いんですよね。
何せお屋敷の坊ちゃんが文字を習う時に団扇で扇ぐ役を仰せつかっているため、それで覚えちゃったのですから。
 主人公の日記には、奴隷の扱いと言うものが淡々と書かれています。
ぶたれる事、鞭で打たれる事、命令される事、自由がない事、結婚相手もご主人様に決められ、手だって出される。でも母親の身分が子の身分となるのだから、奴隷の子は奴隷…。(なんか都合よく決められてたのね。褒められた話じゃないけど、考えてるなぁと思った。性犯罪の温床だわ。)
 幸い主人公はまだ子供なのですが、主人公の周りにいる少女たちは若くして追い立てられる様に大人の女としての役割を求められます。
 まあ暗い話はそれだけでなく、時に理不尽な酷い罰を受け、その怪我が基で死んでしまったり、或いはご主人様同士の賭けのチップ代わりになったり―。
 そのご主人様の家自体も色々と面倒があります。
つんけんした奥様だとか、我儘な坊ちゃま、奴隷でない雇用人や家庭教師…。奴隷同士にも確執が。
そして主人公の行く手には、ついには奴隷解放を目指す地下組織の人間まで。
 逃亡劇までには色々あるのですが、少しだけ坊ちゃまに変化が見えたり、他で無事逃げられた奴隷や、捕まってしまった奴隷と、人の考えや境遇、生き死にが目まぐるしく変わっていく終盤。
最後の最後に主人公が選んだ選択は、予想を超えるものでした。
 …どうしたらこんなに強くなれるのやら、非力な少女だった主人公は、信念を持って自分だけの『自由』を選び取るのです。

 作中に何度も出て来る『自由』と言う意味は、ただ奴隷解放だけの意味でなく、自分にとって何から縛られない事が、選べる事がそう呼ぶにふさわしいものなのか、不自由がたくさん描かれたこの本の中で、一人一人の輝きを持って訴えかけてきます。
 ノンフィクションだったら相当に凄い話なんですが、フィクションであっても切々と、自由とは何なのかと言う問いを突きつけてくる見事な作品でした。
Two Trains

 ローティーンの女の子たちの、友達や学校、家庭でのモヤモヤ話。
どこにでもあるような話ですけど、基本的には良い方向に向かい終わるので、安心して読めるかな。
 しかしいつ見てもこういうやつの女の子グループのじめじめはうっとおしいなぁ。
見下して仲間外れを仕掛けてくるようなやつはそもそも友達じゃないだろうし、逆に自分側があの子は好き、あの子は嫌いと分けてかかってる話もあって新鮮でした。
 新任教師を子供がいじめる話もうわーって思ったけど、本当、旦那さんはどうなったのかはっきりしてほしい。ある意味シャレになってない話かもしらん。

 手に取ったから読んではみたけど、まぁ、あえて、大人になった今、読みたいと言うような話ではなかった。児童書はやっぱり、生々しいのより夢のあるようなのを読みたいな。
こういうリアル系は、正しくその年頃の女の子が読むと色々感じる所があるんじゃないだろうか。
えんの松原

 観光地的な土地名としか認識がなかったんだけど、内裏内の一部分の地名か…なるほどな。
 あらすじ自体はちょっと歴史ロマン的な感じで、事情があり女装して女官仕えをしている少年と、病弱で帝の継承権一位の御子がひょんな事から出会い―と言う感じ。
 蓋を開ければ時代で信じられていた怨霊がテーマのようで、成程、どこもかしこも悪い事は皆死んだ誰かのせいなんだな。
主人公は両親を殺した流行り病の怨霊を憎んでいるし、御子は今まさに怨霊に呪われている。主人公を取り巻く人々の中にも、血筋の者が怨霊になっただとかで風評被害を受ける者も居る。
 そんな中、えんの松原の中で主人公は鳥の姿をした怨霊たちに出遭う。(えんとは怨か?)
えんの松原は真に怨霊の住処であり、松を伐ろうとした男たちをも事故で殺す程の力を持っていた。
 主人公は松原に近づきたくはないが、御子を苦しめる怨霊が居るとしたらここだと、確信を抱きつつ女官仕えを続けていた。
しかしある日、御子を守る祈祷をする阿闍梨の言う怨霊と、御子が言う怨霊は別のものではないかという疑問が出て―。

 この辺りから物語は謎を帯び、読み手をぐいぐい惹き付けてくれます。
 この作品、何よりキャラが立っていると思いました。
男であることを隠さないといけない割に乱暴な主人公や、こっちが女じゃないかと思われるくらい病弱で儚げな御子。口うるさいが頼りになる老女官や、御子の関心を奪われまいと嫉妬を露わにしてくる美少女女官。
どのキャラも非常に練り込まれた自然な感じの立場と行動、心情で、生き生きとしています。
 また、真の怨霊の正体が解ってからは、御子の抜け出せない運命の哀れさやそのお話の行きつく先と、細やかなストーリー展開も魅力。

 児童小説の割に、古風だしページ数多いし…と思っていたけど、読んでみれば生き方について、真正面から語り掛けて来る力強さに溢れた本です。
時代小説の分、好き嫌いが分かれそうですが、なかなか読ませてくれました。
11をさがして

 ディスレクシア(難読症)の少年が主人公と言う珍しいお話。
それが故に屋根裏部屋に隠されていた新聞記事が読めず、そこに載っていた幼い自分の記事に疑問を持ち、自分の出生の秘密を探ると言うものです。
成程なぁ。
 しかしこのディスレクシア、ディスクレシアありきのストーリーなのか、ストーリーありきのディスレクシアなのかよく解らず。
 この設定が一番意味を持つのは最初の『新聞記事(謎)が読めなかった』部分くらいで、あとは流れ位にしか感じられず。
ちょっとグッとくるなぁと言うのは、ラストの辺りで『読めないけど、書けないけど、伝えたい事があるんだ』と言う持っていき方くらい。これ自体も正直、ちょっと…弱い。
 何せその気持ちは十分、他の行動や人との関わり合いで伝わってくるから。
 謎自体も結局はいわゆる『大冒険』的な展開になるわけでなく、あくまでも本人の中で本気で悩んだ大事件ではあるのだけれど、小さく収まってしまう話で、心の揺れ動きで繋いでいるストーリー展開。

 むしろもうひとつの軸である主人公と親しくなった少女との友情物語の方が気持ち良く、こっち一本で煮詰めてくれた方がすっきりしてたかも。
 まぁ少女に話しかける理由も謎が原因なんだけど、最初にあらすじで屋根裏部屋の謎が強調されてたもんで、そっちを膨らませて考えてたから、盛り上がりに欠けたんだよね…。真相が解った時の肩すかし感も加えて。
 それからそれを押しのけるくらいに、少女のキャラが良かったとも言える。
イラストも魅力的に描かれているし、言動や絡み合い、すべてがこの二人のハッピーエンドを願ってやまない魅力的なものでした。 謎は置いておいて、二人の友情を噛みしめたい一冊。