元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
いたずらおばあさん

 まぁ純然たる児童書だろうと思い手にしましたが、その通りでした。
紛う事なき児童書。それ以下でもそれ以上でもない。
いや、これ、褒めてます。
 余計な色気を出さずに、子どものために純粋な語りでお話が練られていて、読んでいて安心して楽しめた。

 お話としてはおばあさんが主役と言うなかなか面白い視点で、洋服研究家の先生が主人公です。
彼女は着ると若返る服を開発してしまい、弟子のもう一人のおばあさんと一緒にその服を着て、8歳の女の子に戻っていろいろやらかしちゃうと言うもの。
 この『やらかす』のも、心はおばあさんだけど、体が子供になると身も軽くなって、いつの間にか心も身軽に、子どものように純粋な気持ちになってくる上でのいたずら心。
知恵や度胸はそのままですから、なかなか普通の子供には出来ない事をやってのけます。
 相手は結構な酷い目にあるんですが、これは『大人から読んでいて、酷く恥ずかしい目』と言い換えてもいいかも。
 子どもが考えると、こんなやつ、いたずらされて当然!とかこれくらいのいたずら、と思える感じなのですが、大人として『もし自分がこれをされたら…』と身震いする程『恥』ないたずらが多いのです。
あー…大人が読んでもささるわぁ。
 感動的とか、そう言う所じゃない。子どもなりの正義があるお話ですが、少なくともお涙頂戴の話ではありません。

 鮮やかにやり込めて、キュートにしめしめとほくそ笑みあう二人のおばあさん。
ラストも綺麗なもので、子どもの心が残っていれば、体は老いていてもキラキラしてるよって言う空気が良い。
このあたりでグッとくるのも大人の読者かと。
子供の頃は子供の頃の良さなんて、自覚がないもんね。
 子どもはいたずらの爽快さを、大人はその裏側の『大人の子供らしさ』を、楽しめるお話だと思います。
かさをささないシランさん

 これも予想と違ったお話。
雨が降っても傘を差さなかったと言うだけで、牢屋に入れられてしまったシランさんと言う、国による弾圧や統制を受ける事への云々…と言う物語なのですが、想像に反して、シランさんは決して望ましい主人公ではなかった。
 まず何が衝撃って、ラストですよ。
シランさんは助かってませんし、また、どこかしら自業自得の様に話が結ばれる。
 いや、ラストにはもはや、シランさんと言う個人はどうでも良くて、大勢の中の一人としての怖さ、責任、力―そんなものを無理やり押し寄せる波の様に考えさせられる展開なのです。

 確かにシランさんはとんでもない理由で国に投獄されます。
皆が雨に濡れるのが嫌で傘をさすのに、こいつは喜んで濡れていて、事実家に傘が一本もない。異端だ。何をしでかすかわからない。国の安全のためだ―。
 この流れで何の罪もないのにいきなり人生を狂わせられるのですが、シランさんは冒頭、遠い国の遠い人たちの飢えの苦しみだとか、謂れなく自由を奪われる人たちへの支援の一筆だとかと、『どの時代でもこういう事は起きるよね』と心を痛めたふりをしながらも、他人事で流しているのです。
これ、シランさんを責められない…。
 自分一人が動いても何も変わらないと言う諦めには、自分一人が手助けしなくても問題ないだろうと言う他力本願の姿勢や、所詮は他人事と言う自分勝手、いや、問題意識すら持てない心情が一緒に含まれている。これ、物凄く、リアルな一般人じゃないですか。
 それなりに先進国に生まれれば、居ながらにして様々な世界の窮状を知る事が出来ます。
おまけに自国の貨幣の価値でも高ければ、簡単に手助け出来る位置に居る事になります。
 それでもまず自分の生活しかリアルな問題に考えられないし、自分の国の事は自分でやってくれとか、偽善だとか、知りえたすべてに手を差し伸べろと言うのかとか、色々な意見もあるでしょう。
『何もしないから』と言って決して攻められるものでもないはずです。
 でもこの本では、皮肉にもシランさんは檻の中で、一転して遠い国の人々と同じ苦境に陥るのです。
そして、そんなシランさんを助けようと―遠い国の見知らぬ人が、手紙を書きます。
冒頭、シランさんが書かなかった、手紙を。
その苦境を憂い、国に彼の解放を願う手紙を―。
 シランさんは、誰かに自分の手を差し伸べませんでしたが、誰かに手を差し伸べられるのです。
この本ではシランさんがそれにどういう反応をしたとか、シランさんのその後は一切書かれていません。
…重いなぁ…。

 このラストを見てまで、だから助け合うべきだとか、単純には言えません。
自分も助けて欲しいからそうするのと、明日は我が身と思い行動するっていうのは、似てるけどちょっと違うと思えるし。
 全身全霊奉仕の心なんて理想論は言いませんが、この本の訴えかける所って、心のひだの非常に入り組んだ部分に感じます。
 なお、シランさんは遠い国の人々に共感されましたが、現実に顔を合わせていた職場や趣味の仲間たちには、あっさりと手の平を返され、無関係だとすぐに忘れられてしまっています。
 こういう対比までされると、ますます難しい問題です。
 言おうと思えば遠い国の人々の心が優しいわけでなく、火の粉が降りかからないから好きに動けるんだとか、自己満足のボランティアだとか、そっちの面でも賛否両論出そうな感じ。

 様々な角度から、色んな良心と折り合いとが絡みあう作品。
考えだすと、動けなくなるね。やらない善よりやる偽善と言う言葉を思い出した。

 なお、イラストはポップなくらいの海外チックなタッチ。線画と言ってもいいくらいのシンプルさ。
なのにシランさんが投獄された時の怖さときたら…。何なの、絵本の力って。
すみ鬼にげた

 仏像に踏みつけられた鬼の像を、大工が助け、朝になるとその鬼の周りを取り囲むように仏像(武装系)たちが―と言うあらすじを聞いた瞬間、「怖ぇーっ」と震える。
 私の中では、逃げた鬼を八部衆らが武器を手に手に、取り囲んでいる図がぐるぐると。
果たして仏にどんな目にあわされるのか、鬼。そっちが心配になりました。(ええまぁ、既に何百年と踏まれ続けてきたわけですが。この上逃亡、脱獄罪だと一体どんな…。)
 その後が気になりすぎて読んだわけです。

 まず想像と違ったのは、鬼は踏まれてるやつじゃなくて、寺の四隅の支えている状態だった事。
鬼が哀れで大工が助けたわけじゃないという事。
 そもそも大工は見習いになったばかりの少年で、鬼に挑発され、つい鬼を自由にしてしまいます。
…せめて「絶対に朝には戻るから」とか約束させてるのかと思いきや、それすらないからね。
 私はこのまま、鬼に騙されて少年が食べられやしないかを心配したよ。
 鬼は愛想も良くないが、恩は忘れない様で、少年を連れて、自分が行かなければならないと言う山中へびゅんびゅんと。
そこで集まっている魔物たちの前で、海を渡ってやってきた馬頭の鬼と力比べをするのが目的だったようです。
 まぁ後半は少年も交えて、祭り状態で騒ぐのですが、鬼はちゃんと少年を他の魔物から守っていました。
もうそれだけでお釣りがくるいい話…。

 しかし少年を返すために再び寺へと出向く鬼。
よく寺へ戻れるなぁ。
 案の定待ち受ける仏たち。
少年はここで申し開きを―するのかと思いきや、気が付いたら普通に寝ていたのです。あああ、仏様?!一応理由とか、聞いてあげて?!
(まぁ何の断りもなく、逃がしたり逃げたりしたのは少年と鬼の方ですがね。)

 でもその後ほっこりするのは、朝になり急いで鬼の居た四隅を確認する少年。鬼は以前と変わらず柱に挟まれています。心配そうな少年の問いかけに、鬼は一言たりとも反応しません。―でもその顔は、満足そうに、どこか笑っているのです。
あー…なんか、いいね。
ほっとした。
 この後、少年が腕のいい大工に育っていくのも、また良い。

 これ、モデルが唐招提寺の鬼らしくて、ひとつだけ妙に笑っているような不思議な表情をした鬼がいるらしいんです。そこからこの物語を思いついたようなんですが、そんなのあったっけなぁ?今度見てみようかなと言う気になりました。
 また、輪郭線のない淡い水彩調の絵も、驚くほど表現力と雰囲気にあった見事なもので、デフォルメの中のリアルさと言う、独特の感覚をくすぐられました。
エリカ奇跡のいのち

 ナチ時代のホロコースト。そこへ輸送される途中でエリカは母親にありえない方法で助け出される―。
そんなあらすじを見てどういう事だろうと読んでみたのですが、うん、まぁ方法が画期的とか言う話じゃなかった。
 そして本当にその助け出すシーンのみで成り立っている物語で、その後のエリカの生活とかほぼ説明はない。
ワンシーン絵本。
 拍子抜けはしましたが、絵が物凄く細かくて綺麗です。

 お話自体は、その時の母親の行動が手に取るように想像出来るし、娘が大きくなってそんな母の気持ちを読み取れるようになっているのが実にグッとくるのですが、旅先で遭った女性から聞いた出生秘話と言う(実際そうらしいのですが)態そのまんまの話より、ちょっと物語らしさを加えたストーリーが欲しかったかな。
 事実と言う重みは何も変わりませんが、読ませ方が気になっちゃった。
新・どの本よもうかな? 5・6年生

 さぁ、子どもじゃないけどその本読もうかな?
児童文学めあてで。

 しかし驚いた事にこの本、5、6年向けなのに絵本から始まってるのよ。へぇ…拘らない所が良いね。
そうなの、対象年齢よりも上の人はすべからくその本を読んで理解し、面白いと思える可能性があるんだものね。
 そして1Pに1冊の本の紹介なんですが、上手いわ。
あらすじ→途中で引いて興味を引く―と言う単純なものでなく、問い掛けを絡めつつ、こちらに話しかけて来るかのように興味を持たせてくれます。
くっ…大概読みたくなるぞ、これ。
 本当、どうしようかと言うくらいにどんな話なのか、続きが気になる本だらけでした。

 この本、ガイドとして優秀過ぎるわ。
大人しく読みたい本リストに書きこんでいくか―。