元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
十三角関係

 山田風太郎。
割と長編ばかり読んで来たので、今度も構えたけど、良かった、普通の大きさの本だ。(まぁ字は小さ目だけど。)

 あらすじは知らずに借りてるんですが、まぁ不思議な感じで話が進む。
なんぞシリーズ探偵ものの、最初の話っぽい事をどこかで読んだんですが、その探偵、予想を覆すお人でした。
 所謂ハードボイルドや正統派ハンサムや、おおよそ『主人公ルックス』してないにも程があるわけですわ。
太っちょおじさん。…医者で人格者ですけどね。
描写があまりなもんで。(初登場で飲んだくれてるとか、もう。)
 まぁそれでも清濁併せ持つ感じでしょうか、風俗街に迷い込んで来た女子高生を、知り合いの女性の所まで案内をする。
そうするととんでもない凄惨な形でその女性は殺されている―こうして事件は始まります。
 その女性はバーだのキャバレーだの複数の店を経営する凄腕美人ママなのですが、彼女について、お店の女の子たちの証言が始まります。
 それに合わせて一人称を章毎に変えているのですが、古い小説でこのパターンは余り見た事がなかったので、俄然面白く。
 また変わったシーンを持ってくるなぁと言うエンタメ性も良かった。『嘘倶楽部』とかありそうだし、使い方が上手い。
医者先生、手管に長け過ぎている。

 そして容疑者等は面白い様にわずかな時間の間に何人もいると言うのがこの作品の醍醐味。後々その関係のなさそうな人たちがここまでかと言わんばかりに己の事情のために動く時、蜘蛛の糸の様に複雑な事件を起こすのだなぁとストーリー展開には感心しました。
はぁー、これはまた見事な図だな。
 何せ作者の筆致が心強く、グイグイと読ませます。
 登場人物たちの心情は然る事ながら、ラストのどんでん返しにも似た衝撃の事実が、また最後まで手を抜かずにタイトルに集約される『関係』を語り尽くしてくれているし。タイトル上手いよなぁ、言葉の選び方と言うか。
 
 山田風太郎と言えば歴史、時代小説のイメージでしたが、そもそもそちらも読んだ事がなかったので、一気にミステリー作家と覚え込んだ一冊となりました。
面白かった。
神様ゲーム

 あ、この独特の装丁はミステリーランドのか…?(リンク画像とは違うハードカバーで読んだ。)
そう、分厚さの割には開くと文字も大きく間が広く、あっという間に読めちゃう、かつて少年少女だった大人と子供たちのためのシリーズ。お手軽に、しかもそれでいて上質なものが多くて結構好きだわ。

 さて、ぶっちゃけて言うとこの神様ゲーム、投げっぱなしで終っています。
ラスト…衝撃過ぎるだろ、驚かしゃぁいいってもんじゃないぞ。もっと、ほら、ないの?
根本的な所を謎は謎のままで終らせる代わりに、オチに思いも寄らぬ幕引きを持ってきたと言う気さえする。
 しかし。
そこに至るまで、ラスト数枚までは確かにハラハラドキドキしたのです。
 特にトリックが秀逸とか、動機がリアルとか、そう言う部分では何も感じる事がないのですが、まずは設定かなぁ。
転校生が、「自分は実は神様なんだ」と、全知全能の神である事を主人公にバラすのです。
 これ、普通ならパーフェクト系少年を思い浮かべる所なんですが、ここでは皆に馴染もうとしない、地味で暗い男の子でしかない。
ははぁ、注目を浴びようとしてありがちな嘘を言ってるな、と主人公もムキになって少年の言葉の矛盾を突こうとするのですが、まぁ口が達者で聞いていてやり込められる事がない。
 しかも実際に、全知全能だった―いや、マジで。
ここらでもう完全なるフィクションですよね。
 これ自体にトリックがあるのかと思いきや、そんな事なく、少年には調べなくても普通に犯人は解るし、天罰を当ててくれと言われれば当てられる…と完全千里眼&この世は神様の思い通り。
 いや、もう、神とか宇宙人とか、本気でその存在出してくるなら反則もいい所なんですが…。
 主人公も最初は相手の法螺に付き合っている、ゲームのつもりだったのに、いつの間にか信じざる得ない状況で、猫殺しや人殺しの犯人に天罰を!と願うのですが、それで死んだのはまさかの―?と、もうここら辺から完全ホラー展開に。
す、推理ものじゃなかった。ああ、ミステリーってまぁレーベルは確かに偽りないな。
死に方とかまた結構えげつないんですが…。

 まぁこの有り得ない動機や、主人公が10歳と言う設定の割に、好むものや反対にさめた物の考え方とか、ちょっと所々でバランスがおかしい気がして、物語にどっぷりとは嵌れず。フィクションを現実の様になぞる読書感はなく、むしろそれ用に作られた舞台や見世物を眺めている感じがしました。
その上で、奇妙な空気感や不気味さを楽しむ本、かな。
 ラスト以外は全編不穏な運び方が上手いです。日常がグラデーションに蝕まれて行く状況が、ひたすら怖い。
世にも奇妙な…とかで行けそうなストーリーでした。あ、これホラーとして考えると結構面白いわ。

 この『推理小説と思っていたら違った』時の文句たらたら感は何なんだろうね。見たかったのはそれじゃない、って一方的な読者なんだけど、実は作品自体は視点を変えれば面白味が全く違うと言うもの、多かったりします。個人の感想だから思った通りに書き留めるけどさ…どんだけカテゴライズやレッテル、思い込みに侵されてるのやら。(しかしその分上手く騙される確率も高く、どんでん返し展開が効果的な受け手だとも思う。)
まぁ少なくとも投げっぱなし謎系はスッキリしないと言う意味で好みじゃないんだろうな。
 自分一人の中でもこんなに本の面白さについて揺れ動くのに、個人個人で感想や点数なんて違って当たり前だなぁと思う次第でありました。本は結局味わってみなきゃ、解らない。
悲しみのイレーヌ

 『その女アレックス』が面白くて遡り。
シリーズ一作目。しかしアレックスの時はアレックスが酷い目に遭ったので、イレーヌもそうかしらと身構える。だってイレーヌは、主人公の刑事の奥さんなんだけど…。
 もうね、アレックスの時、主人公の奥さんの描写の詳しい所忘れちゃったから、不安が募るわぁ。

 で、最初はどうって事のない(とは言え猟奇的な連続殺人事件なのだけど)事件に煮詰まりつつ、絡んでくる新聞記者はしつこいし、初手から主人公の内側はコンプレックスでいっぱいだし、こんなもんかと言う進み具合。
ところが。
 ところが事件がどうも小説を題材にした模倣犯?と気づいたところから、ようやく知恵比べのゴングが鳴る。
 とは言え、事件ごとに模倣する小説は違うし、共通点もないし、次の本が解らなきゃ対処の仕様もない。
これは何というか、フェアじゃないよなぁ。
次の本のヒントや、規則性があるならいいけど、ないんだもの。
 それでいて犯人は主人公の事を気に入り、勝負を仕掛けてくる。
 実際に何の小説かはその道のマニアらが刑事から要請を受け調べ出してるから、主人公VSと言う気も言うほどしないし。
 驚いたのは、主人公が犯人を釣る為に新聞広告をうって、平気で自宅の住所書いたりするところ。
案の定これが後で最悪の結果を招くのだけど…。(まぁそれを頼らなくても、調べるくらい簡単に出来たけどね、犯人側は。)

 そして随分長めの第一部が終わり、終わりの方で第二部へ。え?こんなに量が違うの??ときょとんとしたが、きました衝撃の真実編。
 この第二部を読んで、ああ、やっぱりアレックスの人だ、間違いないわぁとしみじみと。
当然アレックスの方が色々な部分で上達が見られるので、粗削りな所はあるんですが、一気に今までのストーリーが様変わりで見えるフィルターの凄さが素晴らしい。
 たったこれだけの真実を挟み入れるだけで、物語は緊張し、この本自体をひっくるめて現実と虚構がせめぎ合い、融合するイリュージョンを見せてくれました。
この手のどんでん返し本は、最小限の仕掛けで最大の効果を得るもの程素晴らしいわけですが、この作者はそこら辺が上手い。

 最後の最後は本当にドキドキしながら貪るように読んだのですが、え…となるラスト。
これは…きっついなぁ…。
ハッピーエンドが当たり前とは言いませんが、悲しすぎるし、これでよくシリーズ物にしようと思った。
神はいないよ。

 ところで原題がどういう訳され方なのか解らないものもあり、さらには何作かすっ飛んで日本じゃ翻訳されている模様。ど、どういうつもりなんだよこの翻訳順…。
 とりあえずこのシリーズを埋めたかったんだけど、歯抜けならちょっと戸惑う。
待てばその内全部訳されるんだろうか。
笑う赤おに

 作者の名前でつい手に取る。ホラー系だわ。
実際はホラーと言えども『人間怖い』の方でしたが。

 主人公は冴えない主婦。
夫や娘、姑、ママ友…とマウンティングされる側でコンプレックスの塊。
それでも小学生の娘(ですら父っ子)の安全を気遣い生活してるのだけれど、娘の周辺に怪しい中年男性の影。
 また場面は切り替わり、鬱憤の溜まったフリータたちが、生活保護者憎しと彼らを(合法的に)罠に嵌めるため、ネットビジネスを始めるが、やはりそこにも怪しい中年男性の影。
 両方とも、何故かしら自分たちの必死の行動は相手に筒抜けで、ネットから送られてくる『みんな見てるよ』的なメッセージに戦々恐々。
現実世界では常にあの怪しい中年男性の影がちらつくが―。

 と、水面下のストーカーのし合いみたいな序盤。
 なにせ現実的にはどれだけ不安に陥れられても、実害がないから警察も動かないし、誰にも頼れない。
主婦は孤立無援で駄目主婦認定だから言う事も真面にとってもらえないし、フリーターらは己も合法とは言え後ろ暗い所があってか同じ穴の狢。
ただひたすらに確定してもいないネットからの脅迫や長髪に振り回される。(実際それがあの中年男性なのかもわからないが、そうだとイメージングされている。)
 確かに中年男性はクズ。
豪遊しつつ、網の目をかいくぐり税金から生活保護と言う金を巻き上げて生活している。
他人を威圧し、怪しい挙動満載。
一方で本当に保護が必要な者が苦しんでいたり…と社会の理不尽に怒りを向ける様に仕組まれている展開。
 ただこの手の小説となると、どこにどんでん返しが潜むか解らないので、この不透明な男、その意味でもどの位置に置いていいのか困惑する存在です。
(そんな風に小説の筋を予測して読むもんじゃないんでしょうが、構えちゃうようになるくらいどんでん返し系ホラーが世に多いんで…。それすらも翻してくれる展開をワクワクして読んでます。)
 それでも主婦が、掲示板で同じ主婦たちの協力を仰ぎ、犯人の素性を暴いていく流れなどは、さすが鬼女板…と恐ろしい反面、頼もしく読んでいました。
諸刃の剣ですが、正義と言う名義大分にはストッパーがかかりにくいもんです。

 で、中盤くらいには大体読者的には『敵』の正体が予想付いちゃうんですが、そこが当たったからと言ってやっぱりかぁ―で終わる話じゃなかった。
 全てが終わり、主婦は娘や夫、周囲の信頼を勝ち取り、希望を掴む。フリーターはこの世のままならなさを知ったが、改めて家族や人とのつながりを再認識―と明るい感じで締められてホッとするのですが、いやはやそこで終わらない。
真のラストは『あなたはなぁんにも見えてない』。
まさしく、これ。
 この話が一体何だったのか。違う視点で語られて行くラストは、まさにどんでん返しどころか、築いていた世界の全てが違って見える。
 それぞれの優しさや正しさが、ただ噛み合わないだけでこんなにもたくさんの悲喜劇が生まれる。
人生の糸の絡まりを思えば、神様のシミュレーションを見ているようで怖く、また心細くなりました。

 期待を裏切らぬ、予想をさらに超えた衝撃のラストを用意してくれていた作品です。
読んでハラハラ、最後にバッと視界が開けるような物語の真実。
 悲しい人が多いお話ですが、強くあろう、正しくあろう、優しくあろう―弱いが故に人間の底力を信じたくなるようなお話でした。
タイトルも凝っていて良いです。
6時間後に君は死ぬ

 ミステリ。
ちょっと不思議な感じの短編集。

 タイトルの物を読みたくて手に取ったのだけど、なかなか最後までああかと思えばまた違い、それもまた違い…と疑惑の畳みかけで繋ぎます。
疑心暗鬼まっしぐら。
 まぁハッピーエンドでかつ、素敵な余韻の終わり方なので途中も安心してハラハラ出来るよ。読後だから言えるけどな。
 肝心のあらすじは主人公の女性がいきなり見ず知らずの男に「6時間後に君は死ぬ」と予言され、なんかどうも本物っぽいから対策しなきゃ死んじゃう!となり自分を殺しそうな人間を疑ったり、避けようとしたり、いや、逆に自分から先制攻撃しちゃえとか(どんな思考だよ、それ。お前強いのか?)、行動力たくましい感じです。
 しかしたった6時間で物凄くたくさんの行動をしてる気がします…。
まぁともあれ面白かった。

 長めのショートショート的なお話で、すっきり綺麗に読めます。
途中で、どうやら一人物を縦糸に、いろんな話を連作にしているのだなと気づくのですが、良作濃度が高いです。
正直どれもこれも、アイディアの捻り、構成のバランスと文句が無かった。ミステリの割にはハートフルな作風で和やかに読めたのも良かった。
 『時の魔法使い』は幼い頃のノスタルジアと、今の自分を再び奮い立たせるような、誰もが思い描いていた素敵な大人の世界、あの感覚を味合わせてくれる物語。
どこかしら甘酸っぱい。
 『恋をしてはいけない日』。
結構最後までどういう事か主人公と同じテンポで状況が予測出来なくて、普通に驚いた。
上手いなぁ、やられた。
 なんとも悲しい物語です。ハッピーエンドが欲しかったんですが、これ故に予言通り、そして悲恋なのでしょうね。
 『ドールハウスのダンサー』。
少し捻りがあって、一人物ではなくその祖母の絡みのお話の様です。
ひたすら不思議な話なんですが、ダンサーの挫折と生きて行く事の『進むしかない』道筋。
前向きに考えられる方が、幸せという事なんでしょうね。
 『3時間後に僕は死ぬ』。
ここへきてこのタイトル!
凄い。やられた。
 再び最初の話の二人が主人公。
最初の話でお別れしてたので、もはや二度と繋がらぬショートストーリと思っていたのに、運命を信じる信じないで、これも受け取り方で幸せを『掴もう』とする、エネルギーの塊の様な主人公女性。
素敵だわぁ。
 予言通りの人生の方も、悪く無く思えたんだけど、自分で作ろうと言う心意気が爽やかに終わります。
 にしても、このタイトルで、この全体構成、盛り上げてくれるわぁ…。
 『エピローグ 未来の日記帳』。
 うーん、これは誰視点と言う解釈なんだろう。
ここまでの作品で伝わってきた運命に対する捉え方は同じで、生きる力を感じるワンシーンなんだけど、単体で読むと謎が残るお話だな。
深読みせずとも良いのかな?

 とにかく全てハズレのなかった一冊です。
読んで良かった。
 この人、『13階段』の人か…。タイトルだけ知ってるけど、これだけ面白いんなら読んでみようかな。