元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
バウンダーズ この世で最も邪悪なゲーム

 この副題がたまらなくそそります。
七人の魔法使い』に引き続き、ハウルの人の本。
 最初いきなり知らない世界に放り込まれて絶望としか思えないスタートなんですが、とりあえず自分がゲームをするというより、高次元の種族らしきプレーヤー達のゲームに巻き込まれ、コマやカードの役割が主人公と言うのが面白い設定だな、と。
実際はそれよりも悪くて、捨てカード扱いなんですがね。
 ルールすら知らされない中で半永遠的な寿命とゲーム内不死らしい状況で、いろいろな事を主人公は経験則で覚えていきます。
誰にも殺されないらしいとか、何かしらのターンが終わるごとに次の世界(フィールド)に飛ばされるらしいとか。
 便利なようでいて地獄なのは、この死ねない&積み重ねてもまたすぐに別世界に飛ばされる点。
最悪な世界なら終わりがあるからいいやと思えますけど、いい世界だとねぇ。
まぁ主人公の目的は自分の生まれた世界へ戻る事なんですけど。
(そこに行き付ければゲームから脱する事が出来る様子。)
 主人公は13歳の姿にして、世界を100以上経験しており、もう精神年齢は大人なのですが、特殊な人生だし、同じ様にこのゲーム内をうろついているバウンダー(皆巻き込まれて自分の故郷を目指している、通りがかりの一時的な仲間)達との関係性を見ていると子供のケンカっぽいのが多い。
まぁ元々が生まれた世界も違うし、無理やりゲームに巻き込まれてるし、そりゃいざこざが絶えない状況ですが。
 それに世界がいちいち変わるたびに今まで覚えていたその世界なりのルールも覚えなおしだしね。言葉すら。
嫌すぎるハードモードです。
 老若男女、バウンダーには居るのですが、主人公と縁あって一緒に行動しているは同じ年程度の少年と少女。中身が結構いってるのはむしろ主人公だけじゃないかと。
 特殊な力を持つ少女と、悪魔祓い(見習い)の少年。
相変わらずこの人のお話は展開が全く読めなくて、プレイヤーたちへの復讐や故郷へ帰り着く事以前に、各世界で起こるトラブルが常識のじょの字もないからね。
段々この作者さんの作品カラーが把握出来てきたわ。
 いろんな世界でのキャラが増えてきてから物語は動き出す感じなんだけど、読者が馴染のある現実に近い世界の少年が、話を聞いただけでこのゲームのルールを推測出来るたが離れ業過ぎた。
 あとキーパーソンとなる人物と、本当に奇跡的に遭うなぁと。
 勿論物語なんでそれくらい当たり前なんですけど、実際はこんな風にプレイヤーらは上手い事確率や意図的なゲーム展開をして、主人公らを動かしているというのに、よく反乱出来るもんです。だって最終的にはコマがプレイヤーに一矢報いるどころか復讐を果たすんですもん。
この勝つ条件がまた困難どころか難解で…。
最終章一歩手前はもう本当に心打ち砕かれる。
一瞬BADENDものだと思ったもの。
 しかしこの作者さんって、物語の芯の部分が物凄くややこしいお話ばかりなのね。
とてもスッとは頭に入ってこない。
あと、決してキレイキレイしたハッピーエンドじゃない。
 主人公ばかりか、各キャラのそれぞれもなかなかに胆が据わっているというか、普通じゃない人生、そして決着なんですが、何せ主人公がえらい結末を迎えたもんで、もう今までの読書分の感情が一気に持っていかれる。
この救いの無さは一体…。
 狂気ENDすら有り得て、この展開、本気で怖かったよ。
 こう言うテイストでこの人の作品は何故子供向けとなっているのやら。一般書でいいくらいだと思いました。
夜の写本師

 表紙が違うバージョンで見たな。
 未来に残る一冊、いつの日か古典と言われるような作品。そういうものとエンタメ主流の今時作品の境界線が分かりづらくなっている昨今ですが、こちらの作品はかなり評価が高いようです。まぁファンタジーなので、凝った設定が紙一重と言うか。
あらすじだけで読むかどうしようか迷いに迷っていた本。

 月と闇と海の印を持って生まれてきた主人公。そこには3人の魔女たちの前世が秘められている。
主人公はすぐに魔女である老婆に引き取られ育っていくが、そこでいろんな事を手ほどきされる。
薬に強く知識に厚く、大人も顔負けの能力を見せるのだが、自分が魔女の跡を継げないのを少し不満に思っている。師匠である魔女は、村に住む他の少女を自分の跡継ぎにと考えているのだ。
 国は強い力を持つ魔導士の男に支配されており、他の魔導士の一派を生み出さぬよう、魔力のある子は小さい内に国に取られ、教育を施される。
老婆は少女を取られぬよう、子供の視察に来た魔導士たちから少女の事を隠した。
(主人公は普通に視察されていたので、魔力に関してはないのか、察知されないのか??)
 どうも国を支配する魔導士は、女の魔法が怖いようです。
他の魔導士の魔法をどんどん吸収していくようなのですが、女―魔女の魔法は吸収しても使えない様子。
まだ秘密は明かされていませんが、主人公に宿る3人の魔女たちの印も、彼と因縁があるようです。
 さて、老婆が少女を隠した事はすぐにばれ、いきなり魔導士自身が現れます。
激しい戦いになり、老婆は主人公に言うのです。
少女を連れて逃げろと―。
 てっきりここから少女と少年のファンタジー逃避行が始まるのかと思いきや。
どっこいあっさり殺される少女。
ぇ…ぇえええええ??
一瞬、大怪我とか、あるいは捕まったのかと思った。助けに行く話なのかもとか。
 ところが本当に少女は死亡。
逃げるのは少年一人でした。
あー…意外と、ハードだな?

 プロローグはここまで。
異例も異例、3つも印を、さらにはそれが因縁深き3人の魔女の物と言う設定で、超人主人公or貴種漂流譚かと眇めで見ていたのですが、いろんな意味ですぐ読めるようなお約束には流れなさそうで、このプロローグを読み終えて、ちゃんと読もうと気になりました。
 また、強大な魔導士を前に一歩も引かぬ老魔女かっこいい、敵国の魔導士だけど老魔女の知り合いで国を裏切った老人も気になる。
続きが気になるなかなかのプロローグです。

 主人公はいろいろ転々としていく内に、この世界では魔法系統の違う『夜の写本師』と言う職業に就きます。
本を作り上げる過程で、文字やインクに呪いを練り込む方法なのね。
 この世界、魔法大系のいろいろ違うところや、それが流行っている・禁止されている国、エリア、もの凄く細かい設定があるようです。
いろいろ大系(ルール)の違う魔術同士でやり合っていく物語と思えばいいだろうか。知能戦異能バトルとか好きな人は面白いのかも。
 私には一見ではこの世界の魔法についての下敷きを把握するのはちょっと難しいかなと思いましたが、主人公の目的達成までが目を離せないのでどんどんと読んでいきます。
 目標―勿論、老婆たちを殺した魔導士の男を殺す事です。
 途中、少年に宿った魔女たちの前世の記憶に関する章も交じり、それを読むと魔導士の男にはらわた煮えくり返る感じです。
これは許せない…。
少年に力を貸す者たちも、前世(あるいは生き続けていて)で魔女たちに関わりのあった存在のようです。
魔法で何百年と生きるのが当たり前の様なので、魔導士の男は当時のまま、人の魔力をぶん獲りながら生き永らえているのですが、そんな老獪な相手をどうやってやるのか?
まだまだここら辺は序盤と言えましょう。
 しかしネタバレすると3人の魔女は元々最初の魔女(?)の生まれ変わりのようで、結局はひたすらにこの魔女が毎回同じ魔導士に狙われ、殺され、魔法を奪われていくの繰り返し。えぐい…。
 その度に魔導士は新たな魔法を得るのですが、さらに厄介な事に何のかんの『自分が殺す日までお前は死なない』と言う逆説的な呪いを魔導士にかけたこの魔女、万分の一でも、魔導士の一面に惚れた過去があるのですよね。魔導士の方も屈折しまくりですが、ある種の特別な感情を魔女に抱いていて―とどこかしら切ない一面もあり。
 ただ、そんな事感じさせない壮絶な殺し合いと呪いの言葉の応酬は何だろう。運命に弄ばれ憎み合い殺し合うことになった恋人たち、とかそんなじゃれ合いではない。
絶対にもっとドロドロした愛憎綯交ぜの関係ですよ、これは。

 そして今世も魔導士は魔女の生まれ変わりを探して魔法を奪おうと画策するのですが、魔女は見つからない。
それもそのはず、今度の魔女は男に生まれ変わっていました。
つまり―主人公。
 ぇえええええーっ?!
そう来るのか。
ちょっと吃驚しました。
 もう男女とか超えて『縁』としか言えない。
 主人公は情けの欠片もなく魔導士に残酷な復讐を遂行しますし、魔導士も魔女憎し。
最後の最後で、最初の頃にお互いが惹かれた何かを魔導士の幼い頃の記憶の中に見出し、憎しみだけでは終わらないのですが、男・男で迎えた終焉は恋愛云々ではないわ。
 ただ、このお話の超越しちゃってる『縁』を感じたのは、その後歳を取った主人公の前に、魔導士と同じ石を抱いた幼い娘が現れた事。
ドラマティックに見るのならば…まさか、魔導士の生まれ変わり?
 主人公は喜んで少女を弟子に迎え、「昔お前と同じ石を持って生まれた魔法使いが居てな…」と話をし出すのですが、こんな濃厚でグロい昔話をしちゃうんだろうか、主人公。
そこで終わってます。

 とにかく、湿っている呪いの感情や、乾いていて冷淡な暴力―それらが良いも悪いもなく押し寄せてくる圧倒的な物語。王道ファンタジーとは言いたくないダークな部分が物語の中核を占めます。(まぁ確かに復讐劇ですけど。そもそもこの世界の魔法に一切犠牲のないものはなく、敵も味方も周囲に常に死体が累々な所とか。)
しかしその闇が強調される中にぽっかりと光のスポットが浮かび上がり、物事のシルエットが強調され、それが重厚さを醸し出してもいるんですね。
 何をもって王道とするかは難しいところですが、久しぶりに油絵などで挿絵が欲しいと思ったお話でした。
 ただ、メインの復讐劇以外の部分の闇の描き方はバランスが『薄い』なと思いました。
これはピントの合わせ方なのか、そこまで練ってないのかどちらだろう。復讐の方の闇が濃すぎたのかな?

 そして勝手に続き物と思っていたのですが、これシリーズはあるものの、主人公が変わるのですね。
出来れば今作主人公とその少女弟子の続きが見たかった。
 ちょっとまぁ、続きは今のところないかな。
凝った魔法世界の設定は興味深いのですが、全体的に暗いので、ストライクとはいきませんでした。
塵よりよみがえり

 ブラッドベリをまた。
SFと言うよりこれはホラーファンタジーといった所でしょうか。
ホラーを付けないでも良いかな?
 あらすじに『屋敷に何百年の生命を誇る一族たちが集まる夜―』みたいに書いてあって、少年もその一族なので吸血鬼系の話かと思いきや、ちょっと趣が変わったのは主人公が実は人間と言う事を知ってから。
 なんと少年はこの屋敷に捨てられていた人間の赤ん坊で、屋敷の夫婦(もちろん人外)が拾って育てているという設定なのです。あらほっこり。
 夫婦、特に妻は少年を溺愛、少年の方も周りの家族や親戚が全部人間でない事を知っており、『おじさんみたいに翼が欲しいなぁ』とか『僕も誰かの中に意識を入り込ませたいなぁ』とか思っている。
まぁ他の人間を知らない彼からしてみれば、周り中特殊能力を持った不死の存在だらけの中で、自分が出来損ないと思っていても仕方がない。
 『永遠に死ねない』と言う意味を分かっているのか、自分もいつかどうにかして皆と同じ『永遠』を生きたいと思っています。
 モンスターを少数派にするのではなく多数派にしたり、人間は襲われる対象ではなく可愛がられ保護される対象と言う、逆手の設定が割と逆手を取る今時の感覚にも通じていて、面白いなぁと思いました。
 また人外たちがいろいろ個性的で、中でも一族の長のおばあちゃん(ひいが千回付くらしいが、年代的に計算あってるんだろうか?)はエジプトのミイラ姿。青いアイシャドウの美しい人―と最初に来るので、かなり印象に残ります。
このおばあちゃんが孫である主人公の少年に昔話をしてくれ始めたもんで、てっきり一族の由来とか、昔話風に話が進むのかと思いきや、そうに非ず。
現代進行形、むしろ破滅への未来へ向かってお話は進みます。
 闇を忘れさせても、信じさせすぎても自分たちは人間たちに迫害される―だからこそひっそりと一族たちは住んでいるのですが、最終的には彼らの存在が明るみに出るのです。
 慌てふためき散り散りになって逃げざるを得ない一族たち。
しかし人間である少年は、ここで散り散りになってしまっては恐らく寿命の内に再び一族たちとは再会出来ないでしょう。
少年に決断を迫るおばあちゃん。
さぁ、まだ永遠が欲しいのかい―?
 結局少年はただ永遠を生きるだけで幸せは得られないと悟ったのか、もはや一族を羨ましいと思う事はなくなります。
そのまま人間社会に戻るのかと思いきや、彼はミイラのおばあちゃんを連れて、人間の考古学者の元へ。
おばあちゃんを保管して欲しい、そして自分がいつでもおばあちゃんと会える様、いつでもここに出入りできるように取計らって欲しいと。
 ラストだけ見ると夢見がちな少年の妄想話のように終わります。
 話の中で実際に人間たちが彼らをどう罵り、攻め込んでくるかは描かれていませんし、一瞬そういうオチのホラーなのかとも。
しかし10歳の少年が語るにはいろいろなものが含まれ過ぎた一族たちの話。
 こういうラストを用意した意図がわかりませんが、何を感じるかは人それぞれ過ぎる作品だと思いました。
 映像化もされているようで、さぞかし幻想的な絵に仕上がっているのだろうなぁ…。
ジャンルはファンタジーなんだけど、文学臭のするお話です。
朧月市役所妖怪課

 サブタイトルが河童コロッケです。なんだそりゃ。

 今までの作品とはちょっと色が違っていて、妖怪ものですが、市役所ものなのでてっきり人間が妖怪を云々…と思っていたら、市役所側も妖怪だった。(と言うか、人間なんだけど、明らかに妖怪能力持ち揃い。)
 主人公はそんな市役所に、期間限定でようやく雇われた身。
公務員であった父を尊敬しており、自分も―と思うのですが、この通り妖怪課。
一日目から妖怪に遭遇するわ、憑りつかれるわ、もう大変。
弱音を吐くもなかなかそうもいかなくて、事態はどんどん進んでいきます。
 そんな中、主人公なりの使命感により、心意気でくらいついた事件が解決され、上手くやっていけそうとなった頃、なかなかの事実が明かされます。
 何故主人公がこの妖怪課へ呼ばれたのか、そして主人公が持つ(持っているはず)の能力が何なのか―。
 ここら辺、なるほどの設定でして、今後の主人公の活躍が期待されるところだったのですが、お話自体はえらく不穏に終わっています。
 妖怪と穏便に住んでいくための市役所側に対して、妖怪なんて退治すればいいじゃんと言う民間企業が現れるのです。
しかもそれが3人の女性。まさに魔女。
彼女らに好き勝手されないため、妖怪課らは立ち向かう事となるのですが―。
以下次巻。

 あ、そう、続き物なのか…。
まあ予測はしてましたので、触りを確かめたと言う感じでしょうか。
 相変わらずキャラ設定は上手いもんで、皆が個性的。判で付いたようなキャラは居ません。
ただ、どのキャラが好き―と言うのは今回はないな。
善意の塊のような主人公に好感は持てるけど、こういう話って、脇役にこそお気に入りを見つけて読みたくなるじゃない。
そこだけまだ乗り切れない部分。
 今のところ可もなく不可もなくと言った印象か。

 あ、タイトルの河童コロッケは事件の内の一つ、サブタイトルみたいなもんでした。
どろぼうの神さま
どろぼうの神さまどろぼうの神さま
(2002/04)
コルネーリア フンケ

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 タイトルだけ聞いた事のある本。
なんだっけなぁ、しかしこれがオリジナルなのか、それとも他に似たような名前の付け方の作品があって、そっちの記憶なのか、もう良く解らない。
 とりあえず、舞台がヴェネツィアで、「お」と思った。
ヴェネツィア作品は世界観が好きさ。
 あらすじとしては、親を亡くし、親類に離れ離れにさせられそうな兄弟が逃亡。
母親がいつも寝物語に聞かせてくれていたお伽話の様な水の都を目指す。
ヴェネツィアで5歳の弟を抱えた12歳そこらの兄は、似たような境遇の、お互いの過去を詮索し合わない少年少女たちの仲間に迎え入れられ、皆で隠れ家を作って子供たちだけで生活をしていた。
 その集団のボスは、ほとんど歳の変わらない少年で、彼は奇妙な仮面をかぶり、この町で『どろぼうの神さま』と呼ばれる天才的な泥棒稼業を営んでいたのだ―。
と言う感じ。
 ああ、読む前はボスの泥棒はもっと大人、青年くらいで主人公らの兄貴分かと思っていた。
同い年くらいだったとは。
 そのせいかスリだのなんだののチンケな稼ぎよりも、大きく盗難品で稼ぐ彼の立場は、この集団で確かに発言力の大きいリーダー的なものであるが、泥棒の魔法が解けた時、主人公たちはいとも簡単にボスを自分らと同等の扱いをした。あろう事か敵対すらも。ここら辺、他の子供たちもたくましいな。皆年下ばかりなのにね。
 この『魔法の解け方』と言うのが実に上手いと思ったわけです。
盗難品の出どころ、それがもし盗んだものでなかったのなら―?
成程、確かに嘘やはったりで泥棒なんて出来ないと思っていたけど、そういう手か。
 そう、彼、実は良い所のお坊ちゃんだったのです。
自分の家から価値のある品物を持ってきては、盗んだとして売りさばき、それで彼らの生活を立てていた。
少年らはしかし、自分たちと同じ立場で盗みの腕だけで大金を稼ぎこそすれ、彼を尊敬していたと言うのに、本当の彼は親も居れば家も有り、しかも金持ち―。
自分達との生活が、遊び半分、虚栄心を満たす偽物の付き合いだったと傷ついて、溝が深まってしまいます。
 ただそれだけではまだ彼の事を信じようとしていた子供も居たのですが、彼が家から盗んだものは、自動的に彼の子守の少女に疑いがかかり、それを止めようともしなかったと聞き及び、結局は彼は一人きりに―。
 この辺りからぐいぐい引き込まれます。
彼にしてみれば、いくら親も家もあるとはいえ、確執があるから問題を抱えているのは同じなんだけど、なかなか簡単にはいかないのね。

 実は縦糸として主人公兄弟を見つけ出して連れて来させるために、親戚から雇われた探偵が彼らをつけ回す、と言うこちらもハラハラする要素が盛り込まれているのですが、こちらでは天使の様な弟の緊張感のない行動に、心配症の兄がハラハラし通しと言う、この間見たアニメの兄弟の様な関係性にちょっとデジャビュを覚えた。
 あれとは違って、弟君は無邪気なだけで誰かのためとか言うよりは我儘な行動が大きいのだけど…兄にあれだけ愛され守られているのに、兄の心知らず、弟君は「うるさいお兄ちゃんより、どろぼうの神さまの方がかっこいい!僕もどろぼうのお手伝いをする!」とむりやり現場について行ったり、その辺りが弟を真っ当に育てたい兄の葛藤もある所だと思うと、主人公兄、なかなか悩みどころの多い人生の様です。
大体はこのお兄ちゃんに共感覚えるお話なんだよねぇ…。
 付きまとう探偵と対峙した時、兄は「自分が今大人なら、働いて弟を育ててやれるのに―」と、『早く大人になりたい』子供の、子供らしからぬ発言をします。
 自分が弟と家出した事で、弟の人生を狂わせたのじゃないか、自分は弟を幸せに出来る、自分たちの気持ちを分かろうともしない大人達に頼らなくても―と言う焦りや、ジレンマ。
 これだけでなく、共に行動する少年少女たちも、生い立ちに深い闇を抱えている事が解る描写がちらほらと…。
何と言うか、綺麗にいろんなものを織り込んでくるなと言う印象のお話なのです。群像劇と言う程ではないのだけど、ちゃんと登場人物一人ひとりすべてに、背景が垣間見える。

 そして大人になりたい子供、或いは子供に戻りたい大人と、物語のキーワードが上手く絡んでくるのは、とあるメリーゴーランドが登場してから。
それに乗れば年齢を自由自在に出来ると言う魔法の噂付きの代物。
とある貴族からの依頼で、どろぼうの神様はそのメリーゴーランドの装飾の一部分を盗んでくるように言われるのですが―。
 最初はその装飾品がメリーゴーランドの一部と言う事も解らなかったのですが、その辺が明かされるにつれ、事態は一気に動き出します。
大人と子供の視点を変えながら、孤児院、贋金、泥棒、仲間…。
それはまるで読者自身がメリーゴーランドに乗って、この幻想的な町が織りなす光景を、子供になりながら、大人になりながら見ている様なもの。メリーゴーランドはまさに魔法と言う言葉が持つイメージと重なる印象的なアイテムです。

 ―と、ここまで雰囲気に浸りつつお話を読み進めていたのですが、後半驚きの展開が。
メリーゴーランド、まさかの本物の魔法アイテムでした。
…ぇ?
 こ、これ…割と近代の現実世界ものじゃなかったんかい?!と、ファンタジーに突っ込みを入れる。
 いや、この展開は唖然とした。
現実世界物だからこそのもどかしい人生に、魔法を介入させたら、ちょっと今までの折角の切ない流れが台無しだろうて。(この点でこの本をファンタジーに分類。)
 結果的にはそれはそれで皆の人生が上手くいくんですが、出来れば最後まで魔法は無しでお話を終えて欲しかった。
特にまさかそれで幸せになれるとは思っていなかった、思ったよりも骨のあったどろぼうの神さま。
その他の子たちも、皆それぞれが本当に思うままの所に行きついて、嬉しいんだけど随分丸く収まったなぁと。
 あとバルバロッサが物語のオチとか、あのラストはどうなんだろう?
『どろぼうの神さま』と言う象徴的な単語を、ああ言う風に使ってほしくは無かったから、あれだけ蛇足だったかなぁ…。

 しかし丁寧に詰め込まれたこの物語、大変楽しく読めました。満足の一冊です。
今はこの人が書いた他の物語も面白そうだなぁと思っている所。