元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
夜の写本師

 表紙が違うバージョンで見たな。
 未来に残る一冊、いつの日か古典と言われるような作品。そういうものとエンタメ主流の今時作品の境界線が分かりづらくなっている昨今ですが、こちらの作品はかなり評価が高いようです。まぁファンタジーなので、凝った設定が紙一重と言うか。
あらすじだけで読むかどうしようか迷いに迷っていた本。

 月と闇と海の印を持って生まれてきた主人公。そこには3人の魔女たちの前世が秘められている。
主人公はすぐに魔女である老婆に引き取られ育っていくが、そこでいろんな事を手ほどきされる。
薬に強く知識に厚く、大人も顔負けの能力を見せるのだが、自分が魔女の跡を継げないのを少し不満に思っている。師匠である魔女は、村に住む他の少女を自分の跡継ぎにと考えているのだ。
 国は強い力を持つ魔導士の男に支配されており、他の魔導士の一派を生み出さぬよう、魔力のある子は小さい内に国に取られ、教育を施される。
老婆は少女を取られぬよう、子供の視察に来た魔導士たちから少女の事を隠した。
(主人公は普通に視察されていたので、魔力に関してはないのか、察知されないのか??)
 どうも国を支配する魔導士は、女の魔法が怖いようです。
他の魔導士の魔法をどんどん吸収していくようなのですが、女―魔女の魔法は吸収しても使えない様子。
まだ秘密は明かされていませんが、主人公に宿る3人の魔女たちの印も、彼と因縁があるようです。
 さて、老婆が少女を隠した事はすぐにばれ、いきなり魔導士自身が現れます。
激しい戦いになり、老婆は主人公に言うのです。
少女を連れて逃げろと―。
 てっきりここから少女と少年のファンタジー逃避行が始まるのかと思いきや。
どっこいあっさり殺される少女。
ぇ…ぇえええええ??
一瞬、大怪我とか、あるいは捕まったのかと思った。助けに行く話なのかもとか。
 ところが本当に少女は死亡。
逃げるのは少年一人でした。
あー…意外と、ハードだな?

 プロローグはここまで。
異例も異例、3つも印を、さらにはそれが因縁深き3人の魔女の物と言う設定で、超人主人公or貴種漂流譚かと眇めで見ていたのですが、いろんな意味ですぐ読めるようなお約束には流れなさそうで、このプロローグを読み終えて、ちゃんと読もうと気になりました。
 また、強大な魔導士を前に一歩も引かぬ老魔女かっこいい、敵国の魔導士だけど老魔女の知り合いで国を裏切った老人も気になる。
続きが気になるなかなかのプロローグです。

 主人公はいろいろ転々としていく内に、この世界では魔法系統の違う『夜の写本師』と言う職業に就きます。
本を作り上げる過程で、文字やインクに呪いを練り込む方法なのね。
 この世界、魔法大系のいろいろ違うところや、それが流行っている・禁止されている国、エリア、もの凄く細かい設定があるようです。
いろいろ大系(ルール)の違う魔術同士でやり合っていく物語と思えばいいだろうか。知能戦異能バトルとか好きな人は面白いのかも。
 私には一見ではこの世界の魔法についての下敷きを把握するのはちょっと難しいかなと思いましたが、主人公の目的達成までが目を離せないのでどんどんと読んでいきます。
 目標―勿論、老婆たちを殺した魔導士の男を殺す事です。
 途中、少年に宿った魔女たちの前世の記憶に関する章も交じり、それを読むと魔導士の男にはらわた煮えくり返る感じです。
これは許せない…。
少年に力を貸す者たちも、前世(あるいは生き続けていて)で魔女たちに関わりのあった存在のようです。
魔法で何百年と生きるのが当たり前の様なので、魔導士の男は当時のまま、人の魔力をぶん獲りながら生き永らえているのですが、そんな老獪な相手をどうやってやるのか?
まだまだここら辺は序盤と言えましょう。
 しかしネタバレすると3人の魔女は元々最初の魔女(?)の生まれ変わりのようで、結局はひたすらにこの魔女が毎回同じ魔導士に狙われ、殺され、魔法を奪われていくの繰り返し。えぐい…。
 その度に魔導士は新たな魔法を得るのですが、さらに厄介な事に何のかんの『自分が殺す日までお前は死なない』と言う逆説的な呪いを魔導士にかけたこの魔女、万分の一でも、魔導士の一面に惚れた過去があるのですよね。魔導士の方も屈折しまくりですが、ある種の特別な感情を魔女に抱いていて―とどこかしら切ない一面もあり。
 ただ、そんな事感じさせない壮絶な殺し合いと呪いの言葉の応酬は何だろう。運命に弄ばれ憎み合い殺し合うことになった恋人たち、とかそんなじゃれ合いではない。
絶対にもっとドロドロした愛憎綯交ぜの関係ですよ、これは。

 そして今世も魔導士は魔女の生まれ変わりを探して魔法を奪おうと画策するのですが、魔女は見つからない。
それもそのはず、今度の魔女は男に生まれ変わっていました。
つまり―主人公。
 ぇえええええーっ?!
そう来るのか。
ちょっと吃驚しました。
 もう男女とか超えて『縁』としか言えない。
 主人公は情けの欠片もなく魔導士に残酷な復讐を遂行しますし、魔導士も魔女憎し。
最後の最後で、最初の頃にお互いが惹かれた何かを魔導士の幼い頃の記憶の中に見出し、憎しみだけでは終わらないのですが、男・男で迎えた終焉は恋愛云々ではないわ。
 ただ、このお話の超越しちゃってる『縁』を感じたのは、その後歳を取った主人公の前に、魔導士と同じ石を抱いた幼い娘が現れた事。
ドラマティックに見るのならば…まさか、魔導士の生まれ変わり?
 主人公は喜んで少女を弟子に迎え、「昔お前と同じ石を持って生まれた魔法使いが居てな…」と話をし出すのですが、こんな濃厚でグロい昔話をしちゃうんだろうか、主人公。
そこで終わってます。

 とにかく、湿っている呪いの感情や、乾いていて冷淡な暴力―それらが良いも悪いもなく押し寄せてくる圧倒的な物語。王道ファンタジーとは言いたくないダークな部分が物語の中核を占めます。(まぁ確かに復讐劇ですけど。そもそもこの世界の魔法に一切犠牲のないものはなく、敵も味方も周囲に常に死体が累々な所とか。)
しかしその闇が強調される中にぽっかりと光のスポットが浮かび上がり、物事のシルエットが強調され、それが重厚さを醸し出してもいるんですね。
 何をもって王道とするかは難しいところですが、久しぶりに油絵などで挿絵が欲しいと思ったお話でした。
 ただ、メインの復讐劇以外の部分の闇の描き方はバランスが『薄い』なと思いました。
これはピントの合わせ方なのか、そこまで練ってないのかどちらだろう。復讐の方の闇が濃すぎたのかな?

 そして勝手に続き物と思っていたのですが、これシリーズはあるものの、主人公が変わるのですね。
出来れば今作主人公とその少女弟子の続きが見たかった。
 ちょっとまぁ、続きは今のところないかな。
凝った魔法世界の設定は興味深いのですが、全体的に暗いので、ストライクとはいきませんでした。
朧月市役所妖怪課

 サブタイトルが河童コロッケです。なんだそりゃ。

 今までの作品とはちょっと色が違っていて、妖怪ものですが、市役所ものなのでてっきり人間が妖怪を云々…と思っていたら、市役所側も妖怪だった。(と言うか、人間なんだけど、明らかに妖怪能力持ち揃い。)
 主人公はそんな市役所に、期間限定でようやく雇われた身。
公務員であった父を尊敬しており、自分も―と思うのですが、この通り妖怪課。
一日目から妖怪に遭遇するわ、憑りつかれるわ、もう大変。
弱音を吐くもなかなかそうもいかなくて、事態はどんどん進んでいきます。
 そんな中、主人公なりの使命感により、心意気でくらいついた事件が解決され、上手くやっていけそうとなった頃、なかなかの事実が明かされます。
 何故主人公がこの妖怪課へ呼ばれたのか、そして主人公が持つ(持っているはず)の能力が何なのか―。
 ここら辺、なるほどの設定でして、今後の主人公の活躍が期待されるところだったのですが、お話自体はえらく不穏に終わっています。
 妖怪と穏便に住んでいくための市役所側に対して、妖怪なんて退治すればいいじゃんと言う民間企業が現れるのです。
しかもそれが3人の女性。まさに魔女。
彼女らに好き勝手されないため、妖怪課らは立ち向かう事となるのですが―。
以下次巻。

 あ、そう、続き物なのか…。
まあ予測はしてましたので、触りを確かめたと言う感じでしょうか。
 相変わらずキャラ設定は上手いもんで、皆が個性的。判で付いたようなキャラは居ません。
ただ、どのキャラが好き―と言うのは今回はないな。
善意の塊のような主人公に好感は持てるけど、こういう話って、脇役にこそお気に入りを見つけて読みたくなるじゃない。
そこだけまだ乗り切れない部分。
 今のところ可もなく不可もなくと言った印象か。

 あ、タイトルの河童コロッケは事件の内の一つ、サブタイトルみたいなもんでした。
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 意外と地雷かと思っていた異世界系が良かったので、気を良くして今度はもし異世界へ行ってしまったら、どんなトラブルがあるだろう?どうすれば助かるだろう?―日々こういうシミュレーションをかかさない心配症妄想系の人のお話。
 大好きだ。こう言う、妄想なのにスーパーマン設定をせず、慎重派だったり小心者だったりするような人。自分が自由に出来る空想の世界の中ですら、慎ましいとか、共感賞賛よ!
 ―が、読んで見ると、イマイチ。
一言で言うと、地味。派手さがない。
 そりゃ大冒険しろと言わないけど、地味の中にもイベント内の盛り上がらせ方ってもんがあるじゃない。
残念ながら、この1(続いてるのか?)の構成は、読者を惹きつける前にページ数が尽きてしまっている。
 あともう少し引っ張れる所までの本にするか、構成を凝縮するかしないと、退屈さは否めない。
 それとやっぱり突っ込み所かなぁ…。
タイトル通りの100は大風呂敷と解っていても、大した工夫なんてしてないし。
 まず主人公は女。
危ないから男に化けよう。(いくらボーイッシュな姿でも、声や喉、雰囲気でばれそうなもんだぞ。)
髪の色で迫害されるかも、ターバンを巻こう。(その挿絵が馬鹿にしてるのか、髪を出しっぱなし、バンダナ状態。)
その程度を工夫と言われても…。
 そして何故だか言葉が通じる、文字が読める。こういう部分のご都合だな。
 このタイトルで攻めるなら、状況がハードモードで、なのに心配性な所が上手くハマってイベントを乗り越えて―と言う主人公を追い詰めるギリギリの壁と、主人公の冴えた妙案と、そのバランスや、話の手の込み具合、そういうのがないとガッカリする。
単なる心配症の主人公ってだけかよ…と。(そんなに心配症でも無いしね、主人公。)
 奇策系のストーリーすら期待していましたが、ちょっと違ったみたいね、あらすじからして。
 むしろうんざりしていたはずの、主人公のお相手役となる騎士との触れ合いの方に、ちょっとした旨味を感じたわ。
主人公は男の振りをしているから恋愛関係にはならないんだけど、ちょっとずれていて人間関係が得意じゃない騎士様に気に入られたと言うあたり。
この騎士が博愛主義者なもんだから、誰か特定の人を贔屓する事自体がもう珍しいと言う―ああ、もどかしさとか、そういう部分でいいドキドキ感だ。
 勿論二人とも、まだお互いを好きだと気付いていないし、主人公の方は良いとして、騎士からは男同士って事になっちゃうもんね。(だからの博愛主義者、恋愛オンチ設定か?)
 ここをもっとロマンスの始まりくらいもう少し確定的に匂わせておいて、そこで一巻を終われば良かったのに。

 とりあえずのっぺりとした印象のお話。
続きはなし。
とあるおっさんのVRMMO活動記
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 地雷と言う気がしたまま、異世界へ行って活躍する僕系レーベルに手を出し続けます。
今度のも設定がいいぞ、おっさんがオンラインゲームで、活躍するんじゃなくて、マイナーなスキルを極めて行くと言うお話。
よし、いいぞ。こう言うちょっと変わった嗜好こそ、隙間産業だ。求めている人が居るのだ。
まぁ『俺強ぇー凄ぇー』ストーリーでない事を祈る―。

 で、読んで見ると、構えていたほどではなく、いや、むしろおもしろい。
あくまでもオンラインゲームと言う視線で世界を語るから、思考がシミュレーションゲームに近い。
スキルを組み合わせたり、ゲーム製作者の意図を読んでみたり、他プレイヤーの行動を予測してみたり…。
一番はやはり使えないマイナースキルを、パラメーターや実装で確認しながら、どうにか効率良くゲームしようと言う思考内容。
どうすればモンスターを楽に倒せるか?
アイテムの売り買いでコスパの良さは?
 主人公がモンスターを倒すとか、他のプレイヤーと競うと言う部分で無く、あくまで自分が興味ある部分を掘り下げて行くだけと言う『マニア』な楽しみ方をしているのが良かった。
いわゆる製作系のレシピの話とか、おもしろいもん。
 そして極自然に『ありそうな』ゲーム運営の元、新しいイベントやアップデート時に、いきなり自分のスキルが超お役立ちスキルになったりと、逆転現象のストーリーが楽しかった。
 それで主人公スゲー、の状況になっちゃうんだけど、そこに至るまでの流れがちゃんと主人公のまっとうなスキル上げのエピソードで土台が出来ているから、無理がなく読めたのが大きい。
 個人的に妖精が出てくるまでの話が、オンラインゲームをやった事のある人にはニヤリと来る神展開かと。
 妖精の話からはちょっと運の良さとか絡んでくるんで、序盤の、主人公の思考だけで成功してきたあたりと比べるといささか面白さは頭打ちの感がある。
 当然、この本、1と書いてないけどまた続いてるパターン。
おもしろかった。
が、正直、続きを読もうかすごく悩む。
 と言うのもこの流れで行くと、主人公はもうゲーム内で相当の有名人。
初期の様な自己完結でやりくりしていた地味な面白さよりも、他プレイヤーとの交流や、派手なイベントで今後の話が予想される。
 となると『俺スゲー』にいつ天秤が傾くのか難しい所なんだよ。
 折角気分よく1巻を読み終えたので、この先、残念な展開になられても…。(何と言うか、この作品、そこら辺の評価がえらい低かったのよね。)
 確かにラストの辺り、妖精の女王が主人公に惚れた(?)的な話はちょっと要らないと思った。あのままクールに妖精の女王然としていて欲しかったんだけど、主人公補正がここにきて入っちゃった気がした。
(挿絵も、もっと大人の女王かと思ってたのに、あのロリっぽさはダメだ。)
 それから、主人公がおっさんである意味は今のところ、この話にない。タイトルでの惹き付けは良いと思ったんだけど、中身として、おっさんを主人公にしたのは何故なんだろう。枯れ気味プレーヤーにしたかったから?
いやぁ、マニアやオタクだったら、若くして隠居性格の人、たくさん居ると思うよ。
 先が怖くてしばし悩みそうな作品です。
保留。
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 少し昔の中国の物語―と言ったところか。
本狂いの少年が、情けをかけた少女は書物を食らう人ならざる者だった。
初対面でいきなり本を盗まれ食われた少年は、カンカンに怒るのだが、少女は食べた本の中身を全部記憶している。仕方なしに、少女のご機嫌を取って読みかけの本の続きを語らせ―といつの間にやら少年は少女の下僕状態に。
 ここまで聞くととんでもラノベだが、設定が『妙』だね。おもしろい。
 実際は作者さん(が中国住まいの中国文学に詳しい人なので)お得意の中国の書物の蘊蓄がガンガン入った異国情緒溢れる活劇小説。
 何せ少女は実は『全世界の人の天命を記されている』と言う本の化身であり、文字を食べれば書いた人の過去や未来が解ると言う存在。
 それを巡り、天命を知り、未来を書き変えて、天下を取ろうと企む(あるいは命を永らえようとする)人々にこぞってその身を狙われる羽目になる。
 少年はいつの間にか少女を家族のように思い、少女を誰にも渡すまいと奔走するのだが―。

 少女の食べ物が、文章、それも美味しいのは面白い物語と言うのが効いていて、少年は作家になりたいと言う夢がある。
少年の書いた文章を食べ、少女は命を繋いでいくと言う設定もまた良かった。
 量の割にあっという間に読み切れる物語で、淡々と、事実関係が過不足なく流れて行き、正に中国の物語風なリズムに思える。人の出会いも別れも会話も、必要最小限なくらい。
 難しいだろうあちらの文学や文化を、かなり読み下して簡素に書いてくれているから余計に淡泊な感じなのかな?日本だともっと違う情緒に訴えかけてくるような文章が入ると思う。
 三国志や西遊記、歴史書、その手の物が好きな人にはたまらないテイストじゃないでしょうか。
終わり方、その後の少年の生き様など、行間に匂わせるものも大きく、時のうねりで鮮やかに締められる物語です。