あああの絵か、と言う表紙と。絵のタイトルは気にした事なかったんですが、『侍女たち』と言うらしい。
実在の絵に絡めて、描かれた当時を舞台にフィクションとノンフィクションが混ざり合います。
登場人物が全部、この絵に描かれた人たちなんですねー。面白いな。
チビすぎて父親にうとまれ、スペイン王宮で働けと家を追い出されるイタリア人の少年主人公。(絵だと犬を踏んでる子ですね。)
おそらくは小人症なのかな?奉公と言うよりは人身売買で連れていかれたので、少年にはもう戻る家は有りません。
幸いにも主人公は頭が良かったので、少しづつ王宮の仕事を身に付けて行くのですが、画家や王の所に出入りする怪しい男にどう気に入られたのやら、「この少年も絵に入れてやれ」と口添えをされたのです。
それがきっかけで画家や王から覚えも目出度くますます出世して行くのですが、今や自分の主人となった画家は、この『侍女たち』を描き上げるのに、強烈なスランプに陥っています。
その絵の正解を掲示するのが、例の怪しい男だと、画家は言い切るのです。
主人公は怪しみながらも、子どもと言う特殊性を活かしながら、周囲の人々の情報を得つつ、自分なりの身を立てる事に忙しい。
やがて画家は狂わんばかりに、「この絵を完成させるために、あの男に何でもやるから答えを教えろと言って来い―」と主人公を怪しい男の元へ送り出すのですが…。
時折出てくるのは、ダンテの神曲や、悪魔的な影。これは向うの宗教観かな?
根底にあるものは重々しいけど、決してそれを深くは描いていない。察せよと言う程度。
通り一遍のゴシックホラーファンタジーと言った所か。確かに児童書。
恐らく大人向けに仕上げてたらもっとどす黒い感じの話になると思うんだ。
画家は、絵に描く事で永遠の水時計を完成させたいとかなんとか、真面な性格の割に妄執に囚われている。
察するにこの絵の中に描かれたものはその世界に組み入れられ―と言う何とも魔術的な話なのです。
それを画家に描かせている(命令でなく、欲望を誘うように)のが、あの怪しい男。
彼も当然あの絵の中に描かれているのですが、絵の中では主人公と同じく小人症の侍女の後ろの方で、ぼんやりと塗りつぶされ気味の顔の男です。
この絵は元々、画家自身に描かれている十字架の模様だとか、怪しい男の姿が塗りつぶされ気味で顔がよく解らない事などが謎を呼んでいるとの事で、それらを上手く塞いだ物語なのですね。これ系の海外の絵にはやたらと隠されたシンボルが多く、もうそれ自体が『絵画』のルールなのかと思うほどですよね。
しかしその逆算のストーリーテラーが、何とも魅力的。
読み終えると話としては綺麗にピースが収まっています。
―恐らくは悪魔に魂を売って絵を完成させたはいいけど、後悔をして自身の姿に神の守護である十字架を組み込んで悪魔を出し抜こうと一計を案じた画家。それが成就された故に、悪魔は敗北し、その姿が絵からぼやける。
そういった所でしょうか。
はっきり書き切らないのも余韻があって雰囲気を出してます。
そして歴史的事実だと、主人公の少年は、『この絵に描かれている人間の中で自分が一番最後に死ぬ』と生前から言っていたらしく、実際そうなっている所だとか、墓標に神曲の言葉を刻んでいるだとか、こちらもフィクションの神秘性に負けてないエピソードに思えます。
なかなか新鮮味のある作品でした。
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