元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
13階段

 『幽霊人命救助隊』の人の。また…転じてきたな。

 致死傷害を起こし、2年の刑をくらった青年。彼が出所すると、そこへ刑務官がやってきて、「とある人物の冤罪を晴らすのに協力してほしい」と―。
何とも気になる出だしです。
 前科者の自分を使う理由も、刑務官の彼が何故冤罪を信じ一人の男を助けようとするのかも、謎。
どちらかと言うと主人公はこの刑務官の方かな。
 この話に出てくる人間は、皆何かしら『刑』に関係する人たちばかりです。
刑を受けた者、冤罪を受けている者、刑を執行する者、刑を終えたものを支援する者、裁判に関わる者、被害者加害者、その家族も。
 まぁね、色々な人物が自らの立ち位置で刑を語るのですが、どれも重く、どれも対立する意見ではあるが、真実味がある。
 刑務官の主人公は、犯罪者を矯正する事に希望を抱いていたが、長い刑務官人生の中で、それでものうのうと生きている犯罪者を見て被害者の悔しさを思い怒りに駆られたり、また束の間、死刑囚の死に恐怖する姿を憐れんだり…とゆらゆらと心を揺らします。一人の人間ですら、刑務官としての職務を持つ人間ですら、日々心を千々に乱れさせているのです。死刑囚に刑を執行した数も、人殺しにカウントして自分の胸に刻みつけながら、彼は現在進行形で悩み続けています。
それと同じくらい、他の登場人物たちも千差万別の考えを持っています。
 作者さんは相当この世界について詳しく調べたようで、テーマがとにかくぶれない。『刑』とはなんであるかを全編通して語り掛けてきます。
単なる犯罪小説を読んでる片手間でなく、むしろこれがメインテーマで、事件の方がおまけに思えるほどです。

 さて、だからと言ってお話の方がおざなりにはなっていません。
 まず冒頭の青年は傷害致死と言っても、こんなの、どう考えても被害者の方が問題あるだろうと思える状況です。
なのに2年の受刑者生活で一種洗脳の様な物かしら、罪を背負って…とか真面目に考え込んでいます。いきなり酒場で目が合って因縁を付けられて、自己防衛のためにもみ合ってたら相手の打ちどころが悪くて―だなんて、青年にしてみれば交通事故仕掛けられたようなもんなんですけど。不可抗力だよ。
 酒場のマスターや客も、前振りもなしに絡んで来たのはむこう、と証言してくれているにも拘らず、罪状が付いちゃってます。(まぁだからこそ人を殺しても2年で済んでるんですが…。)
 でも言葉だけで見ると確かにケンカの末に殺してしまった、みたいに取られるもんなんでしょうね。小説なら状況も本心も見えるけど、現実世界じゃますます…。
 まぁ仕方ないとは言えすっきりしないのは、青年の弟は兄を疫病神扱いするし、被害者の父親は人殺し、許せないといきり立ってる所。
いやいやいや、この状況知ってなお、兄に同情しないの?自分のところの息子の非が発端だろうが??
確かに自分目線で言えば、家族が殺人を犯して、自分の生活がめちゃくちゃになったり、自分にとっては可愛い息子の命を奪われたとかなれば、こうもなるんだろうけどさ。
 その分他の人たちは優しく、協力的でした。
出所後の生活を見守る保護司だとか、弁護士だとか。
 とにかく半ばやるせなさを昇華したいの半分、賠償金のためにお給料欲しさ半分、謎のまま、刑務官が持ってきた仕事にのる青年。
 ここからお話は私立探偵の如く、でも地道な調査が始まるのですが、謎が多い故に、あっという間に引き込まれて行きます。
薄くはない本なのですが、頁を手繰る手は止まらない。
 少しづつ答えの断片が出てくるのですが、まだ繋がらないもどかしさ。
その折々で触れる、他者との感情のぶつけ合い―。

 ラスト近くに謎が解けて行く辺りは、手に汗握る感でした。
ちょっとしたどんでん返し前のミスリードなんて、この理由でも十分面白い結末になる感じで、この考えを導き出した主人公の性格が滲み出ていると思います。
まぁ、真実はちょっと…胸糞悪いんですけどね。
 悪者は成敗されていますが、自らの正義を行った者も、泥にまみれて地に堕ちて―犯罪って言うのは、両者地獄にしか送らないもので、刑で浮かばれるものなんて、お釣りにもならないんだなと空しくなりました。
 だからと言って刑に意味がないと言う意味じゃないんですよ。時は戻らないからこそ、犯罪自体を潰えさせねばと。

 単なる犯罪小説ではなく、よくよく考えさせる作品でした。
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