元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
海の都の物語 上

 結局例の皇帝の話の下巻を読む前に先にヴェネツィア本の方に寄り道。
いやぁ、期待しすぎちゃダメと言い聞かせながら読んだんですが、これもめちゃくちゃ面白かった!
この人のノンフィクション歴史ものって、別に物語風じゃないのに本当、惹きこまれる。
語り部の話を聞いている感じかな。
知識量と臨場感と疎のない人々の轍―。
たまりません。
 この技巧的な話術は、それが人でなくとも―海の都、ヴェネツィアと言う国が主役であっても鈍る事がないのです。
一つの国をまるで一人の人間の伝記と同じように語るには、当時の国の意志とも言える政策や、その真意を深く理解していないと不可能でしょう。

 私がイメージしている水の都も、元は人が住めない沼や湿地帯の潟でしかなく、栄光の象徴のような美しい街並みなど影も形もない時代、ヴェネツィアは敵から逃れるため、仕方なく踏み込んだ不毛の地でしかありませんでした。
 その地は一度生きる場所を海と決めた始まりの人々によって、海路を自由に移動する商人たちの町となり、海では右に出るものが居ない海軍を持つ国となり…それでいてこの国は共和国として、他国の支配よりも欲しいのは自分たちの自由と言う、一風変わった政策を取っていきました。
それが目端の利く商人の目でもあったのでしょうか。
 周り中がキリスト教だなんだと大義名分を抱える中、破門されようがお構いなし、王の座を与えられそうになっても目の前の利よりも先を見越した上で軽く辞退したり、君臨すれども統治はせず、いや、違うな。
自分たちが自由に交易をし、商売をする事に対して誰も発言が出来ないだけの力は見せつけるが、その力や威光を持って自国以外を支配するとか雑事が増えるだけ、それぞれ自治しろよ―なので軒先を借りて母屋を取る方か…?
 とにかく、かのヴェネツィアは卓越した商売人でありました。
 当時としては新しすぎる目の付け所で、土地の支配と言う形で利を得ようとせず、海の主要地点を抑え、流通(荷も、人すらも)を牛耳る形で唯一無二の地位を築き上げていました。
何せ戦争で兵を運ぶのすら流通の内…ですからある意味驚異的な存在になりますよね。
 実際に当時ヴェネツィア程の造船技術や優れた船員、海を知った者は他の国に居なかったわけです。

 中でも元首の一人の逸話はものすごかった。
ほとんど目の見えない様な老人だったにも関わらず、その国の方針の舵取りに迷いも間違いもなく、自ら十字軍に参加しちゃうくらい。それも別に宗教的な義理などなく、ちょうどいいから国の商い上の問題を、これにかこつけてぶっ潰しちゃおう、的な清々しいまでの現実主義。
それでいてやり方は実にクール。
 上手い具合に建前や大義名分を操れるし、かと言って嘘はつかず、信用第一、契約した以上完全履行。むしろ言い出した相手の方が契約を履行出来なくてあたふたする始末。戦争内の突発的な異変にも、元首ときたら慌てず騒がず臨機応変、トラブルの度、常に自分の都合のいい事態に持っていく。(そして要求が、その時は大した事なさそうに思えても、後から約束した側が後悔するくらいの利権を取られている。)
 とりあえず約束は守らんわ、何度も王が逃げるわのビザンチン帝国戦が爽快な感じ。(はてこうなってくると、ビザンチン帝国の方のドラマも気になるわ。主人公補正でこう見えてるだけかもしれないしね?)
 とにかくこのお爺様の知恵者っぷりの頼もしい事…。
 で、なんとこの人、『三銃士』のアトスの先祖…と言う事になっているお人らしい。
あら凄い。

 ここまでだけでまだ半分の内容。ボリューム感たっぷり。
かなりの読み応えで、大満足の一冊です。
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