元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
笑う赤おに

 作者の名前でつい手に取る。ホラー系だわ。
実際はホラーと言えども『人間怖い』の方でしたが。

 主人公は冴えない主婦。
夫や娘、姑、ママ友…とマウンティングされる側でコンプレックスの塊。
それでも小学生の娘(ですら父っ子)の安全を気遣い生活してるのだけれど、娘の周辺に怪しい中年男性の影。
 また場面は切り替わり、鬱憤の溜まったフリータたちが、生活保護者憎しと彼らを(合法的に)罠に嵌めるため、ネットビジネスを始めるが、やはりそこにも怪しい中年男性の影。
 両方とも、何故かしら自分たちの必死の行動は相手に筒抜けで、ネットから送られてくる『みんな見てるよ』的なメッセージに戦々恐々。
現実世界では常にあの怪しい中年男性の影がちらつくが―。

 と、水面下のストーカーのし合いみたいな序盤。
 なにせ現実的にはどれだけ不安に陥れられても、実害がないから警察も動かないし、誰にも頼れない。
主婦は孤立無援で駄目主婦認定だから言う事も真面にとってもらえないし、フリーターらは己も合法とは言え後ろ暗い所があってか同じ穴の狢。
ただひたすらに確定してもいないネットからの脅迫や長髪に振り回される。(実際それがあの中年男性なのかもわからないが、そうだとイメージングされている。)
 確かに中年男性はクズ。
豪遊しつつ、網の目をかいくぐり税金から生活保護と言う金を巻き上げて生活している。
他人を威圧し、怪しい挙動満載。
一方で本当に保護が必要な者が苦しんでいたり…と社会の理不尽に怒りを向ける様に仕組まれている展開。
 ただこの手の小説となると、どこにどんでん返しが潜むか解らないので、この不透明な男、その意味でもどの位置に置いていいのか困惑する存在です。
(そんな風に小説の筋を予測して読むもんじゃないんでしょうが、構えちゃうようになるくらいどんでん返し系ホラーが世に多いんで…。それすらも翻してくれる展開をワクワクして読んでます。)
 それでも主婦が、掲示板で同じ主婦たちの協力を仰ぎ、犯人の素性を暴いていく流れなどは、さすが鬼女板…と恐ろしい反面、頼もしく読んでいました。
諸刃の剣ですが、正義と言う名義大分にはストッパーがかかりにくいもんです。

 で、中盤くらいには大体読者的には『敵』の正体が予想付いちゃうんですが、そこが当たったからと言ってやっぱりかぁ―で終わる話じゃなかった。
 全てが終わり、主婦は娘や夫、周囲の信頼を勝ち取り、希望を掴む。フリーターはこの世のままならなさを知ったが、改めて家族や人とのつながりを再認識―と明るい感じで締められてホッとするのですが、いやはやそこで終わらない。
真のラストは『あなたはなぁんにも見えてない』。
まさしく、これ。
 この話が一体何だったのか。違う視点で語られて行くラストは、まさにどんでん返しどころか、築いていた世界の全てが違って見える。
 それぞれの優しさや正しさが、ただ噛み合わないだけでこんなにもたくさんの悲喜劇が生まれる。
人生の糸の絡まりを思えば、神様のシミュレーションを見ているようで怖く、また心細くなりました。

 期待を裏切らぬ、予想をさらに超えた衝撃のラストを用意してくれていた作品です。
読んでハラハラ、最後にバッと視界が開けるような物語の真実。
 悲しい人が多いお話ですが、強くあろう、正しくあろう、優しくあろう―弱いが故に人間の底力を信じたくなるようなお話でした。
タイトルも凝っていて良いです。
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