元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
山田風太郎明治小説全集 4

 二段組でちょっとだけ怯む感じの厚み。
ううん…読むとのめるくせに、どうしても先にビビるわ、山田風太郎。
 これ、しかし全集なので『明治断頭台』と『エドの舞踏会』の2本が入っている。

 『明治断頭台』は、開国の混乱を極めた少し後、新しい風を受け入れる者、受け入れぬ者で、政治的な思惑の違いの元、政府とはどうあるべきか、と言う大志を基に動く男たちの話。
一応主人公とそのライバルのような関係の男は、親しい間柄だが、政府が正義であるかどうかで意見が違う。
 腐敗した政府が悪いと言うどこまでも厳しい主人公と、いや、確かにそれは悪いが、理想論だけではやっていけない、清も濁も必要と言うライバル。
 そんな中で章毎に政事にも絡む奇妙な殺人事件が起こり、主人公が解決していくと言う連作。
 政事とは言え、明治と言う時代の事、そこには武家の思想も未だ残っており、政略結婚だの、外国人差別だの、お家同士のあれこれだの、単純に『政治』の事件ではない。
成程、この時代ならではの構成だなと思う。
 また、解決するのは主人公、とは言え少し変わっているのは、実際に犯人を糾弾するのは『死人』と言う部分。
正しくは、主人公の囲っている女が巫女体質で、被害者の魂を呼び寄せ、真実を暴く感じ。
 勿論、これは主人公が情報を集め推理し、確信をもって女に教えて演技させているんだろうなと思うけど、当時の風潮的に、まだこれで通じちゃうところがある。これも面白い。
 ただ、この女と言うのがフランス人なのです。で、巫女の格好。違和感…と共に、異国の女を囲いよってと周囲の人間からの糾弾も噴出します。
元より押しかけ女房なのですが、私としては本来の婚約者の日本娘(健気)の方がプッシュだわ、これ。
 主人公はフランス娘の方も嫁にするつもり無し、渡航時に、勝手についてきたとしか言わない。
ここら辺、何か企んでそう。
 まぁ最終的に主人公は、あくまでも己の理想のために生き、死んでいったので、女の事など二の次な気はする。
 それでもフランス娘の身をきちんと守り、日本娘には自分の生き方は危険だから巻き込みたくなかったと告白し、ラストを迎える。
 こうなってくると逆にフランス娘の立場が空しい気もするけど…まぁ、信頼され政治活動を一緒に成した立場と、実は愛され守られていた立場、女としてどっちが良い?と言う微妙なところ。
恋愛小説でもないしね。
 お話自体は結構グロかったりします。
断頭台と言うタイトルの通り、首は飛ぶ、四肢は分断。
 男子たるもの思想を持って生き、死ぬのが当たり前だったような時代に血生臭く、それでいて東洋と西洋が入りまじった華やかで怪しい舞台背景に、その香りや色が濃厚な作品です。実在の歴史的人物もバンバン出てきます。
なんか好きだとか嫌いだとか言う前に、圧倒される怒涛の展開でした。
 ラストだけで、今までの主人公の行動が、執念が見て取れる。

 『エドの舞踏会』は、これが気になってこの本を手に取った作品。
エドって、人の名前じゃなくて、江戸、なんですねぇ。
 これは、鹿鳴館が出来た当時の、実在の人物たちをモデルにした物語。
 これまでも明治辺りの話を読んでいると、鹿鳴館とそれを取り巻く官僚の『奥方』たちが凄かったとちょくちょく書かれていたので気になっていた。
 時代が時代、奥床しさと高潔さが故に、洋装をして踊るなどはしたないと、元々武家の娘であったご婦人方はなかなか舞踏会に参加してくれない。
 夫たちも、いつもの仕事ならまだしも、舞踏会へは夫人随伴とあっては、なかなか難しい。
 それを時に踊りを指南し、英語を話し、洋装で堂々と夫のパートナーとして表舞台へ出てきたのは、元芸者のご婦人方であったと言う実話が元。
 この時代、軍部や官僚たちの奥さんは、芸者から引き揚げられた人が多かったご様子。
彼女らは生まれや育ち、その並々ならぬ人生経験から、気丈にも『新しい時代』に果敢に立ち向かえたのですね。
 実際には舞踏会を中心に、それぞれの夫婦の形を描いた物語がいくつも続いていくのですが、この作者さんのお話にしては珍しく女が主役の(視点は男主人公ですが)ものですので、全く違うテイストの作品として読めました。
かなり面白く、一気読み同然。
何せ彼女ら、強い!
 出てくる男たちは歴史に名を遺す官僚たちなのですが、そんな男ですら時に舌を巻くほどの『強さ』を持っている。
 少女の頃より留学経験を持ち、開かれた思考や語学力を持つ者、夫の妾を目の敵にするどころか、共に夫に一泡吹かせようと画策する者、上品に生活をしていたと言うのに、理不尽で野暮な青年から若い娘を助けるために、啖呵を切って札束を切る者、黙っていれば解らないのに、嘘は嫌だと自分は元遊女だと公言する者…。
まぁ、格好いいは、潔ぎ良いわ…。
 話に上るだけですが、主人に手を出された奉公人が身ごもり、子供を産んだ後、奥方に申し訳ないと自害したなんて話もあり、もうそれを読んだ時には、女の覚悟が凄すぎるやら男が情けないやらで、絶句です。
 とにかく男だろうが女だろうが、一本芯の通っている人間が多いのですよね。また『すべき』事もたくさんあった時代ですから、激しい生き方にならざる得ないのでしょうか。
 男は日本を変えると言う政治に心血を注ぎ、女は女としての意地を見せながら、夫を通じてお国のためと頑張る。
 中にひとつ、夫が浮気した事を知り、怒るばかりかそれを逆手にとって、何故上手く政治的取引の材料にしないのか?と詰め寄る細君がいて、あの時代によくぞそこまで政治的手腕に明るい女性がいたものだと感心しました。
想像するよりも女性が学べた環境だったのかな?
 見るからに内助の功ですが、何のかんの言っても、ほとんどの夫婦は夫の女癖が如何に悪くても、手厳しい一発を返すくせ、結局最後まで添い遂げる人が多くて、それも面白いもんだなぁと思えます。(別れる所はそれはそれで浪漫なのですが。)
 普通に、その当時の鹿鳴館のご婦人方の資料を読むのも面白そうですが、こういう風に小説仕立てになっていると、より一層彼女たちの凄さを感じられて良いですね。
 とにかく格好いい作品です。(なお、実在の人物男性陣らの女癖の悪さエピソードに大体呆れる事になりました。おおよそ政治を語っている時は格好良いのにねぇ…。)
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