元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
ハケンアニメ!

 これが辻村深月と言う不思議さ。
雰囲気変わるなぁ…。
 まぁ勝手にホラーイメージだったんだけど、振り返ればそうホラーを書いてなくて、ファンタジーやミステリーの人っぽいなぁ。
だがこんなエンタメ!みたいな作品、ワクワクしますね。
 表紙がなかなか可愛くて、あらあらウフフとか思ってたらこれ、CLUMPだったと言う。え?そうは見えなかった。
ちなみにビジュアルだと『サバク』の監督ちゃんが一番可愛い。

 さて、タイトルのハテナ。
派遣アニメで、皆アニメーターの話かと思ったら、違った。
ハケンは覇権。
そのクールで一番のアニメを呼ぶ称号。ハケンアニメは自分の作るものだと燃える人々の熱いお話です。
 これがまた…めちゃくちゃ面白かった!
単なるオタクの暴走話とかじゃなく、リアルにアニメ業界の中で働く人々のアニメが好きと言う気持ちや、自分の仕事が他の誰にも負けたくないと言う気持ち、いろいろ詰まってる。
 実に個性豊かなキャラ達が出てくるのですが、そのどれもが丁寧に味付けされていて、良いも悪いもひっくるめて、リアリティの深みがある。
自分を揺さぶったアニメの監督と仕事が出来るようになったけど振り回されまくりのプロデューサー、大きな作品をあてちゃった上ビジュアルがいいもんだから王子ともてはやされる気まぐれな監督、恵まれない家庭から這い上がるように大学へ進んだ挙句アニメに囚われたお堅い監督、ちゃらちゃらしていて軽薄と揶揄されながらも売れる事に置いて妥協とプライドのない敏腕プロデューサー。売れっ子だけど人付き合いの上手くない朴訥なアニメーター、神原画を生むと話題になってピンと来ていないアニメーター。萌え系アニメの5人組アイドル声優の女性たち、売れっ子小説家―。
 他にもそれを取り巻くスタジオ内の人間やフィギュア会社の人間、聖地巡礼でタイアップする市役所の人間―皆ひと癖もふた癖もある人間で、欠点が多い。それでいて実に愛おしいのは、皆が皆、アニメが好きという事。
好きなものを扱う限り、お金の話もビジネスとしてやるし、それでいて歪んだ世間とのズレを自虐して持っていたり、この複雑な感覚が堪らない。
ハケンアニメを争うもの同士ですら、同じものが好きだと言う不思議な連帯感で包まれていて、互いにエールすら送り合う―。
 
 3話あって、てっきり主人公は『リデルライト』の所の女プロデューサーかと思っていたら、主人公入れ替わり制だった。
2話目が『サバク』の女監督。3話目が神原画の女性。
どれも女性視点なのですが、彼女らが入れ込んだアニメとその業界、そして恋愛や友情がとにかくぐいぐい引き込まれるストーリー展開です。
 基本、この2つの作品、『リデルライト』(魔法少女もの)と『サバク』(少年ロボットもの)の一騎打ちで最終的にハケンアニメとなるのはどちらだ?の流れで進みますが、この主人公入れ替え制のせいで、どちらにも感情移入しちゃって困りました。

 大体、ずるいわ。
1話目でライバルとなる『サバク』を書く女監督を見た『リデル』のプロデューサー視点だと、物凄く彼女が驚異的な存在で、そのまま1話は終わるんだけど、同じ時系列の話を今度は2話で『サバク』女監督視点で描く。
あの天才王子監督が作る『リデル』に衝撃を受けながらも、自分の『サバク』に乗せた思いの原点を切々と語ったり―。
で、3話目でそこまででちらほら話の影に出ていた神原画の女の子が主人公で、今度は全員絡んでくる。―と一人の人間が多角面で語られることによって厚みが凄い。
 ていうか、凄いライバルが現れた、ライバル視点はこう―とか燃えずにおられない展開でしょう。

 また気になるのがこの作品内作品の『リデル』と『サバク』。
話の中でストーリーが説明されるんだけど、ラストとかもうものすごく気になってハケン取れるのと別次元でどうなるんだ感が強い。
 かつての魔法少女物で、キャラを殺しまくって終わりたかったのにそれが出来なかった王子監督が新たに書く魔法少女『リデルライト』は、演出が斬新で深夜アニメ枠の紛れもない筆頭。
 かたや王道のロボット少年もの『サウンドバック』略して『サバク』は音を吸い込み変形するロボットと言う斬新な設定で、ところが音を吸い込む度ヒロインの世界からその音が無くなっていくと言うジレンマ命題もの。夕方の古き良きアニメ枠でどうハッピーエンドに持っていくのかが話題となり。
 あれやこれを思わせるタイトルですが、ネットでの反応がまたあるあると言うものばかりで、ファンの動きもお話に厚みを与えてくれます。

 そして恋愛模様ですが…私、1話目のプロデューサーちゃんには朴訥なアニメーターと恋が芽生えればいいのに、と純粋に思っておりました。
ところが本を読み終える頃にはワガママ王子監督とのコンビが完成され過ぎていて、このカップルの方がいいなとか思えた。(いやしかし朴訥君には非常に幸せになってもらわないと気が済まないのですが。)
 彼女が実はモテると言う自覚がなくて、他の章で外から見た彼女の評判が聞けるのですが、そのギャップとか実に可愛いな。
 3話目は神原画の子が恋に疎くて、好きな人に気づくまでだけでストーリーが出来ていてこれまた良い。
 2話目の監督ちゃんは、幼い頃得られなかったものを大人になって取り戻し切ったところが、作品の『サバク』で描かれた”得るために差しだしたもの”とリンクしていて正直胸熱。彼女は恋愛でなく、友達を得ました。
アイドル声優たちとのトラブルが胃がギュッとなる感じでまた…。

 ラスト、皆が自分は良い仕事をした、この仕事をやっていて良かったと自信を持つ頃、とうとうそのクールのハケンアニメが決まります。
しかしハケンアニメと言うのは数字で勝負するしかなく、DVDの売り上げで決まるのですが―。
この納得かつそう来るのかと言うラストときたら…。
もう皆が一番だよと言う気持ちはわかる。
 そして『リデル』と『サバク』のラストももの凄く良かった。そう来るのかぁ、もう、読者視聴者魅せられっぱなしですよ。
正直この2つ、普通に1冊書いてくれないかね?絵も見たい。

 なかなかの厚みと読み応えがあるのですが、この一冊。読んで損はない大満足の一冊でした。良い!
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