元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
暗幕のゲルニカ

 ピカソのゲルニカを展示会開催のために何としても借り出したいサーキュレーターのお話。
主人公は日本人女性で、日本の作家でアートミステリーと言うのが珍しいなぁ…。
どうしてもこういうのは西欧系に多そうな題材なので、最初は違和感ありまくりで読み進めました。
 印象が、軽い。
扱うのがあのゲルニカにも拘らず印象が薄いのです。
 ただし主人公、及びゲルニカを取り巻く環境はテロや戦争、その死と得も言われぬ鮮烈な太陽のような光、パワーに彩られていて、お話が進むに連れ惹きこまれて行きます。
 架空の人物の元で、実際のピカソの当時の背景や周囲の人物との関係を、愛人であるドラから語る昔のパートと、主人公の現代パートに分かれていて、ドラマティックにしすぎな嫌いはあるのですが、シーンのひとつひとつ、及びそれぞれの女性の心情や決意、前に向かう強さが物語に推進力を与えていく―。

 ゲルニカに付いてはあの得体の知れないパワーが詰まった絵ですし、十分に歴史的背景を考えた上でそれを制作したピカソの人物像も、この過去パートで見るにつけ、確かに天才であり、同時に芸術に魂を捧げるが故の人としての横暴さ。それでも魅力的であり続ける彼は確かにドラが惚れるほどの格好良さがある。しかし後半に向かうにつれ、結局男として気ままに女性を愛するせいでドラの醒め方、いや、諦め方と比例して嫌な部分を見せるのだけど、それが却って読ませ方として上手い。
 天才も結局単なる浮気者としての俗物に見える瞬間のこの落差がなぁ。ドラと言うプライドの高い女の生き方も愚かでありながら愛に生きやはり女臭さもたっぷり。
 芸術と言う崇高なテーマに、俗っぽさの対比と言い、生と死、過去と現在(と未来)と、この作品にはひたすら真逆のモチーフが映し出されているようです。
 その最たるがゲルニカの白と黒のモノクロの世界であり、世界観の微に入り細に入り徹底したイメージが、植え付けられます。

 一方現代パートの主人公の方にも同じように一本気な愛があるのだけど、こちらは亡くなった夫に対してのものなので、泥臭さはない。代わりにやはり絵の貸し出しへの駆け引き(まぁ実際彼女は想いこそ強く弁もたつものの、無力さ故振り回されてばかりだと思うのですが)が見所と言った所。
寧ろ脇の権力ある人たちの動きの方が直接的に面白くはあります。

 最終的にゲルニカのとてもじゃないが無理過ぎる貸出し希望、どう解決するのか、ラストは一瞬ん?となるのだけど、スパッと蛇足無しに終わります。
 唯一現代パートのテロ妻の扱いだけがうーん、と言う感じなのですが、どこかひとつだけ突出して高評価を受ける話題本とは違って、全体的にバランスシートが高水準の形を描く一冊と言う感じ。
面白かったです。