元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
8番目の子

 ユダヤ人の少女、施設での実験、迫害―とあらすじでみたので、ホロコーストの話かと思ったのですが、微妙に違った。
 まず戦争の影がない。国の設定までは気にしてなかっただけど、主人公の少女は貧しい家庭ながらも両親と兄と暮らしている。
このまま家族ごと暗い時代に飲み込まれて行くのかと思いきや、まさかの父親の裏切り。
若い娘と浮気して、すったもんだの末、母親を刺殺と言うちょっと胸糞の悪くなる様な展開で始まりました。兄妹は父親が逃亡したせいで親無しになったのね。(父親は6歳の兄に「今日からお前がこの一家の主だ、後は頼んだ」とかほざきましたよ。)

 可哀想に兄妹は一緒に入れる施設が無く、主人公はいきなり一人ぼっちに。
 その施設は最初の一月、児童が病気持ちかどうかを調べるため、必ず隔離棟に閉じ込めます。
そしてそこから人体実験のじわじわ来る話が始まるのですが、時折大人になった主人公の話が挟まってくるため、死なずに済むんだと分かるほっとした部分と、さらに未来パートでも不穏な空気が流れ出す。なんと彼女の働く病院に、入院してきた患者が、当時の施設のドクターで、彼女に人体実験を施していた張本人だったと言う―!…何というサスペンス。
 いやぁ、当の本人は子供の頃自分が何の実験をされていたかも解らないわけで、主人公は最初、そのドクター(女医)に甘えた感情さえもっていました。しかし大人になった今、よくよく考えると子供の頃から自分は剥げていて髪の毛が無く、これはいわゆる、放射線のせいでは…?
 そして思い出したのは、自分が名前でなく、『8番』と呼ばれていた事―。
そこから彼女の世界は一変します。
 癌の片鱗を自分に見て取った主人公は、信じていたドクターに裏切られ、そのドクターの生死は自分こそ握っているのだと。
未来パートはこの複雑な事情ありきの復讐劇です。

 しかし過去パートと共に徐々に明かされる諸事情や、未来パートの思った様にいかない復讐。
それらはやがて、最初に感じた不穏な復讐劇を、まるで違った物語へと導き始めるのです。
 ラストまで読むと、これは単純な復讐劇なんかじゃなく、色んな方向に対する愛憎が渦巻いてる一人の女性の人生譚だったんだな、と。
ミステリーじゃないわ。
人種的な物語でもない。
 主人公の心の機微が丹念に描きこまれていて、憎しみ一色の復讐劇なんかとは全然違う、思ってもみなかった物語を読まされた感じ。
 作者がラストに持ってきたシーンこそが、実はこの主人公の人生の主たるものを象徴しているのかなぁ…過去話から全く予想出来ず。
最初からそう狙っていたのか、途中で着地点を変えたのかがよく解らないのですが、何というか深い味わいの本でした。