元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
クロティの秘密の日記

 タイトルからは及びもつかない、主人公である奴隷の少女の日記と言う体裁の本です。インタビュー云々、実際に実在した人なのか、それともそう言う設定の本なのか不明ですが、時代背景だけは本当。(って、もっともらしく引っ張ってたけど、やっぱりフィクションか。解説でなくきちんと作者本人が前書きか後書きでフィクションなのかそうでないのか書いてくれないと勘違いや歴史捏造が起こりそうでヤダわ。この手のノンフィクション風作品のおかげで、最初から疑ってかかるようになってしまった。)

 アメリカ南部の奴隷制度の時代、奴隷は読み書きを禁止されており、もし文字を読めたり書けたりしたら、とんでもない罰を受ける。(鞭打ちはあるとしてその後追放なのか、まさか殺されたり…はないと思うけど、もっと酷い所に落とされるのは確実。)
 主人公は読みたい、書きたいの思いが強く、たどたどしい言葉で、日記を綴ります。無論ばれたら終わりですから、一人でこっそりと。
 誰にも言えず、でも嬉しさや誇らしさで、ふと誰かに自慢げに喋ってしまいそうな緊張感がこの本の始まりにはありました。(実際、主人公は文字の素晴らしさを、言いたい気持ちで表している。)
 それでも、主人公は『何故ご主人様たちは私たち奴隷が文字を使うのを嫌がるんだろう、何を怖がっているんだろう』と物凄く的確にこの事を捉えています。何かを支配するには知恵を与えたり、伝聞して団結させたり、そう言うものが大きな力になってしまうという事を、感じ取っているんでしょうね。
 今はまだはっきりとわからぬ主人公ですが、とにかく黙っていなきゃと察してはいるようで、文字(日記)の秘密を守り続けます。

 この主人公が賢いのは、そういう思考の部分だけでなく文字に対する学習能力がそもそも高いんですよね。
何せお屋敷の坊ちゃんが文字を習う時に団扇で扇ぐ役を仰せつかっているため、それで覚えちゃったのですから。
 主人公の日記には、奴隷の扱いと言うものが淡々と書かれています。
ぶたれる事、鞭で打たれる事、命令される事、自由がない事、結婚相手もご主人様に決められ、手だって出される。でも母親の身分が子の身分となるのだから、奴隷の子は奴隷…。(なんか都合よく決められてたのね。褒められた話じゃないけど、考えてるなぁと思った。性犯罪の温床だわ。)
 幸い主人公はまだ子供なのですが、主人公の周りにいる少女たちは若くして追い立てられる様に大人の女としての役割を求められます。
 まあ暗い話はそれだけでなく、時に理不尽な酷い罰を受け、その怪我が基で死んでしまったり、或いはご主人様同士の賭けのチップ代わりになったり―。
 そのご主人様の家自体も色々と面倒があります。
つんけんした奥様だとか、我儘な坊ちゃま、奴隷でない雇用人や家庭教師…。奴隷同士にも確執が。
そして主人公の行く手には、ついには奴隷解放を目指す地下組織の人間まで。
 逃亡劇までには色々あるのですが、少しだけ坊ちゃまに変化が見えたり、他で無事逃げられた奴隷や、捕まってしまった奴隷と、人の考えや境遇、生き死にが目まぐるしく変わっていく終盤。
最後の最後に主人公が選んだ選択は、予想を超えるものでした。
 …どうしたらこんなに強くなれるのやら、非力な少女だった主人公は、信念を持って自分だけの『自由』を選び取るのです。

 作中に何度も出て来る『自由』と言う意味は、ただ奴隷解放だけの意味でなく、自分にとって何から縛られない事が、選べる事がそう呼ぶにふさわしいものなのか、不自由がたくさん描かれたこの本の中で、一人一人の輝きを持って訴えかけてきます。
 ノンフィクションだったら相当に凄い話なんですが、フィクションであっても切々と、自由とは何なのかと言う問いを突きつけてくる見事な作品でした。