元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯

 奇人変人と呼ばれた解剖医のお話です。ノンフィクション。
 しかし本を注文してからすぐに、たまたまこの本のレビューをどこかで見たんだけど、それだけ見てるとどえらい犯罪者と言うかサイコな話だったな。
 この本、タイトルがもう伝記につける感じじゃないよね。フィクション系だよ。
 
 さて、以前読んだ本にもあった外科医の先駆け、解剖医。その研究心留まる事知らず、お上品で古典的な医者(内科医??)の役に立たない迷信や進まない医療を横目に、彼らは率先してその目で、我が手で人間の体の秘密に迫っていきます。
つまり、解剖、死体集め、画期的な外科手術を患者で試す事―。
 宗教的な背景もあるんでしょうか、体を切り刻む事自体がタブーっぽいようで、そりゃ解剖医がめちゃくちゃ言われるわね。
麻酔もなく、酒で酔わせて拷問紛いの痛みに耐えて、各部位切断、それで治らなければ元の木阿弥、治っても部位欠損…と、外科医自体も相当な時代でしたが。
病気部位よりも多めに切るってのが定説だったようですね。
 しかしジョン・ハンター。
難読症で、勉強が出来ず、粗野で短気と人に嫌われながらも、自分の目で確かめ、考える事に関しては誰にも引けを取りませんでした。
 何千と言う死体を掻き集め、切り刻み、構造を知って筋道を立て、独自のやり方でいろんな手術法を確立していったのです。
 それでも彼は、意外にも無駄に切ると言う事をしない医者でもありました。切って治らない様な術を施すくらいなら、自然治癒に任せる派。
ただもうそれだけで内科医はおろか外科医からだって、異端だと謗られてしまうのは致し方ない所でしょうか。果ては同じく医者である兄に、才能を嫉妬される始末。

 物語の序盤は、彼がひたすらに死体を集め、悪びる事なく、毅然として突き進む様子が語られます。
新しい手術法にしても、読んでいて成程な、そんな方法がと感心せざる得ない理論です。(成功してるから言えるんだけどね。)
 そこから続く怒涛の快進撃も、基本的に彼は同じ事しかしていません。ひたすらに雑音は排除、自分がこの目で見た事だけを指針に、異端街道まっしぐら。誰が何と言おうが真実は我が目で見た肉体であり、迷信で治す医者などくそくらえと。
 よくこれでこんなに分厚い本が埋まるよ…と言う程エピソードはあるんだけど、常に同じ展開なのね。意見の相違で喧嘩、喧嘩、喧嘩―。
だけど、面白い。
相手取る人物もいろいろ居ますが、その度にとことんやりあっては前へ進みます。

 これは読む前に思っていた程猟奇的な話で無くて、ただ医学に素直に、愚直に向き合って一生を捧げた、医療物語にしか思えない。
この話を暗く捉えるとしたら、時代背景の方の暗さだろうと思う。
 進化の過程に口を出した時なんて、世界は出来て6000年と言う宗教に、『いや、少なくとも10万年は経っているだろう』説で叩かれに叩かれる。
今や45億年以上と言われる地球の始まりですが、宗教が弾圧してくる事はないですし(個人的宗教家は知らんよ?)、彼なら当時、いや、今の時代に生きていてもやはり相当な革新派の存在になったと思います。

 他、珍しい動物と言った博物学の方にも手を出していた彼ですが、ひとえに解剖、転じてはく製や標本、飽きる事ない肉体の謎への情熱が、ベクトルとなっているんだろうな。
 死して自分の特定部位(病気の部分)を解剖しろと遺言し、そこまでは弟子たちもやってくれたのですが、標本にしろと言う遺言は何の遠慮か果たされず。
 膨大なコレクションは同じく膨大な借金と残され、死してからも彼の不遇は続いたようです。
こうして、はるか未来に彼の先見の明を記録した本が出ようとは、思いも寄らなかったでしょうね。

 分厚い本ですが、つい丁寧に読みたくなる、飽きさせぬ物語でした。