元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
検索刑事

 てっきり検索で事件を解決する刑事なのかと思いきや、脅迫状で『6か月以内に検索一位を取れ』と言う流れでした。…なるほど。
そのキーワードは『羽毛布団』。
またなんでこんな詐欺の様な単語なのか…。
 サイトをかじっていた頃を思い出す話で、流れは大体わかりますが、相変わらず指南書なのに小説と言う面白い構成です。
この本、ちょっと字が大きくてただでさえ文庫で薄い本なので、あっという間に読み終えちゃうのが難点と言えば難点。すぐ軽く読みたい時には最適ですが。
 しかしまぁ、手打ちでサイトを作っていた時代からSEOも変わった物です。
これをかいくぐって1位を取るなんて確かに至難の業。
その分犯人の意図とか目的、かなりめちゃくちゃですが、まぁ単純にSEOの話として面白く読めた。
 このシリーズ本当に、油断ならないハウトゥ本だと思う。
暗幕のゲルニカ

 ピカソのゲルニカを展示会開催のために何としても借り出したいサーキュレーターのお話。
主人公は日本人女性で、日本の作家でアートミステリーと言うのが珍しいなぁ…。
どうしてもこういうのは西欧系に多そうな題材なので、最初は違和感ありまくりで読み進めました。
 印象が、軽い。
扱うのがあのゲルニカにも拘らず印象が薄いのです。
 ただし主人公、及びゲルニカを取り巻く環境はテロや戦争、その死と得も言われぬ鮮烈な太陽のような光、パワーに彩られていて、お話が進むに連れ惹きこまれて行きます。
 架空の人物の元で、実際のピカソの当時の背景や周囲の人物との関係を、愛人であるドラから語る昔のパートと、主人公の現代パートに分かれていて、ドラマティックにしすぎな嫌いはあるのですが、シーンのひとつひとつ、及びそれぞれの女性の心情や決意、前に向かう強さが物語に推進力を与えていく―。

 ゲルニカに付いてはあの得体の知れないパワーが詰まった絵ですし、十分に歴史的背景を考えた上でそれを制作したピカソの人物像も、この過去パートで見るにつけ、確かに天才であり、同時に芸術に魂を捧げるが故の人としての横暴さ。それでも魅力的であり続ける彼は確かにドラが惚れるほどの格好良さがある。しかし後半に向かうにつれ、結局男として気ままに女性を愛するせいでドラの醒め方、いや、諦め方と比例して嫌な部分を見せるのだけど、それが却って読ませ方として上手い。
 天才も結局単なる浮気者としての俗物に見える瞬間のこの落差がなぁ。ドラと言うプライドの高い女の生き方も愚かでありながら愛に生きやはり女臭さもたっぷり。
 芸術と言う崇高なテーマに、俗っぽさの対比と言い、生と死、過去と現在(と未来)と、この作品にはひたすら真逆のモチーフが映し出されているようです。
 その最たるがゲルニカの白と黒のモノクロの世界であり、世界観の微に入り細に入り徹底したイメージが、植え付けられます。

 一方現代パートの主人公の方にも同じように一本気な愛があるのだけど、こちらは亡くなった夫に対してのものなので、泥臭さはない。代わりにやはり絵の貸し出しへの駆け引き(まぁ実際彼女は想いこそ強く弁もたつものの、無力さ故振り回されてばかりだと思うのですが)が見所と言った所。
寧ろ脇の権力ある人たちの動きの方が直接的に面白くはあります。

 最終的にゲルニカのとてもじゃないが無理過ぎる貸出し希望、どう解決するのか、ラストは一瞬ん?となるのだけど、スパッと蛇足無しに終わります。
 唯一現代パートのテロ妻の扱いだけがうーん、と言う感じなのですが、どこかひとつだけ突出して高評価を受ける話題本とは違って、全体的にバランスシートが高水準の形を描く一冊と言う感じ。
面白かったです。
長生き競争!

 小学生時代のクラスメイト達が老人になり再会。長生きに発破をかけるため、最後に残った一人が総取りの賭け事を取り決める。老人版逆バトルロワイヤルと言ったなかなか面白いネタです。(勿論殺し合いはしません。長生きする方向での戦いです。)
 しかしその掛け金もまた凄くて、上は4400万からと言う、欲に目がくらみそうな金額が集まります。
 ここに、その金を管理する主人公に不穏な女の影が。
孫と言ってもいいような若い娘が、押しかけ女房の如く家に住み着いてしまい、誘惑なのか単に懐いてるのか、主人公に付きまとうのです。
 勿論若い娘が金目当てに老人に近づいてきたと用心されるのですが、果たして一体―?
 
序盤でこういう展開だったので、ああ、成程、面白そうなと思えました。
どういう話で長生き競争するのかも思いつかなかったんですが、そうか、そっちじゃなくてこういうミステリーか。
不穏でハラハラします。
 しかしこの話が進むにつれ、実際に仲間たちは病気だので本当に亡くなっていきます。
うわー、シャレにならん展開です。この酔狂さといたたまれなさが絶妙なんですよ。

 しかし最終的にはこれ、老いのヒューマンドラマでした。良かった、出て来る人たちに悪人はいなかった。
結構最後までミステリーを疑っていたんですが、ラストにはもの悲しさと空虚感と、それでも幸せの中身ってこんな感じなんだろうなぁと言う後を引く感じで。(個人的には爺さん口調氏が亡くなった時の葬儀の方がグッと来た。)
 タイトルやあらすじからちょっとコミカルな感じの内容を想像していたんですけど、むしろリリカルな物語でした。
貯金兄弟

 お話仕立てで経済を学べるシリーズ。
今回も面白そうだな。
 兄と弟は両親、及び養父を早く亡くしてしまったため、とってもお金に執着してます。
しかしその執着の仕方は両者真逆で、金を使う事で当時の恨みを晴らすの如くかの兄と、金を溜める事で安心感を得る弟と―成程、どちらもコンプレックスだよなぁ。
 生き方一つとっても、大卒派の兄、高卒派の弟、大企業派の兄、公務員派の弟と常に衝突しがちです。
なかなか初手からワクワクする構図だ。
 見出しには『大卒が高卒よりも稼げるなんて過去の事』みたいに書いてあって、私的には弟の言う事の方が私にはしっくりきたなぁ。
よほどのエリート校、エリート企業に就職出来るならまだしも、そこらの大学なんぞ皆行ってるからそれでいい企業に入れる確率なんてないも同然、だったら生涯賃金を増やすため、その4年を使い、リストラに怯えない公平な採用の公務員になる―と言う感じ。このご時世だし…。
 おまけに学歴が出世に影響すると兄さんは言うけど、エリートが集まる所では出世競争も厳しい、じゃあ小さい企業で…とさらに兄さんは言うけど、不況で潰れるのは体力のない会社から、そもそも大学にかかるお金自体マイナス―と弟はしっかりし過ぎのネガティブさです。(ちなみに高校生。)
 まぁ兄弟は両極端なんで、金を今使わないと意味がない兄と老後に取っとく弟、本来はバランスなんだろうけども。
 この家はエンゲル係数70%くらいと言う家計なので、節約自炊を担ってる弟の気持ちの方がまぁ解ると言えば解るかな。
実際兄は頭が良くて大学行く価値があるけど、弟は自分の出来をよく理解して大学を死に金だと判断してるだけだし。世間一般でいう『大学出なきゃ』神話を押し付けて来る兄はその意味じゃ理論負けしてる。(なお新卒内定が決まったばかりの兄。)
 さて、これがどう転がるのか?

 目次も世間のいろんな両極端論の戦いの様です。
生命保険や、賃貸か持家か、とかも入ってます。
 しかしまぁ二人ともどこまで両極端かって、兄はクレジットカードとか消費者金融とか使いまくるし、弟は飲み会全断りから始まり、人の食い刺しを食べたり、自販機のお釣り回収巡り(これまずかったはずだが)を始め、同僚相手に金でやり取りするようなドケチぶりでドン引きなくらい。…も、もう少しほら…。
 ストーリー上も途中から、兄の恋人を弟が取ってしまった様になってしまい、妙な亀裂が兄弟の間に入ります。
(浮気でなく、断ってからの付き合いだけどどう考えても禍根が残るよ。)

 最終的にはお互い結婚するんですが、そこからも人生設計はことごとく違う。
似たもの同士の夫婦とも言える感じでくっついたんですが、ここら辺までくると、兄が可哀そうになる書かれ方が多いかな、と感じたり。
 弟夫婦は子供におもちゃは与えず何回も(折ったものを広げて!)使えるからと折り紙を与える。それに不満もなく喜んで遊ぶ娘。
対して兄妻はダイヤの指輪を見せびらかす様な性格…と、なんかお金の話だから賢く貯めようと言う方を良く書くのは解るんだけど、やり過ぎ感もなぁ。
 現実だと娘が不満を感じたりする可能性の方が高いだろうし、兄妻のは単なる性格設定ひとつのエピソードだよなぁ…。
 極めつけは両者の同じ年の娘が、弟の方は金をかけなくても何でも出来て、兄の方は金をかけても出来ない子と言う都合の良さっぷりが。
まぁ、貯まるか貯まらないかで言うとそりゃ弟の人生なんだけど、兄の扱いが酷過ぎない?
 とりあえず二人とも、何でもお金に考えて人生を決めていきます。

 ストーリー的にはしかし、最後になるにつれ、兄の邪魔もあるが弟の人生に陰りが見え始め、最後の最後で身も蓋もないどちらの金に対する考え方が良いとも言えない所に終わるんだけど、まぁ、運と言う要素は誰にも測れないからね。
ハウトゥ本かつ小説と言う変わった本の落としどころを十二分に活用しているオチかと。
 だけど、途中途中のお金の話は改めて知らない人が多そうな話なので、是非読んでみるといいと感じます。セリフで説明されているので図や文章よりも分かり易いのがまた納得でした。
 弟の人生は極端だけど、自分の感性に合う方法をひとつでも拾えれば吉。
(兄の人生も無駄だとは思わないんだけど、人との付き合いだとか、そう言うのは真似出来る術とかではないので、参考にしようがない。)
8番目の子

 ユダヤ人の少女、施設での実験、迫害―とあらすじでみたので、ホロコーストの話かと思ったのですが、微妙に違った。
 まず戦争の影がない。国の設定までは気にしてなかっただけど、主人公の少女は貧しい家庭ながらも両親と兄と暮らしている。
このまま家族ごと暗い時代に飲み込まれて行くのかと思いきや、まさかの父親の裏切り。
若い娘と浮気して、すったもんだの末、母親を刺殺と言うちょっと胸糞の悪くなる様な展開で始まりました。兄妹は父親が逃亡したせいで親無しになったのね。(父親は6歳の兄に「今日からお前がこの一家の主だ、後は頼んだ」とかほざきましたよ。)

 可哀想に兄妹は一緒に入れる施設が無く、主人公はいきなり一人ぼっちに。
 その施設は最初の一月、児童が病気持ちかどうかを調べるため、必ず隔離棟に閉じ込めます。
そしてそこから人体実験のじわじわ来る話が始まるのですが、時折大人になった主人公の話が挟まってくるため、死なずに済むんだと分かるほっとした部分と、さらに未来パートでも不穏な空気が流れ出す。なんと彼女の働く病院に、入院してきた患者が、当時の施設のドクターで、彼女に人体実験を施していた張本人だったと言う―!…何というサスペンス。
 いやぁ、当の本人は子供の頃自分が何の実験をされていたかも解らないわけで、主人公は最初、そのドクター(女医)に甘えた感情さえもっていました。しかし大人になった今、よくよく考えると子供の頃から自分は剥げていて髪の毛が無く、これはいわゆる、放射線のせいでは…?
 そして思い出したのは、自分が名前でなく、『8番』と呼ばれていた事―。
そこから彼女の世界は一変します。
 癌の片鱗を自分に見て取った主人公は、信じていたドクターに裏切られ、そのドクターの生死は自分こそ握っているのだと。
未来パートはこの複雑な事情ありきの復讐劇です。

 しかし過去パートと共に徐々に明かされる諸事情や、未来パートの思った様にいかない復讐。
それらはやがて、最初に感じた不穏な復讐劇を、まるで違った物語へと導き始めるのです。
 ラストまで読むと、これは単純な復讐劇なんかじゃなく、色んな方向に対する愛憎が渦巻いてる一人の女性の人生譚だったんだな、と。
ミステリーじゃないわ。
人種的な物語でもない。
 主人公の心の機微が丹念に描きこまれていて、憎しみ一色の復讐劇なんかとは全然違う、思ってもみなかった物語を読まされた感じ。
 作者がラストに持ってきたシーンこそが、実はこの主人公の人生の主たるものを象徴しているのかなぁ…過去話から全く予想出来ず。
最初からそう狙っていたのか、途中で着地点を変えたのかがよく解らないのですが、何というか深い味わいの本でした。