元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
イルカは笑う

 SF短編集。
どんな感じなんだろう?タイトルと言い、表紙と言いなんかふんわりと優し気な―と思っていたら最初から驚愕。
 「2199年、南海電鉄の800人乗り宇宙船に乗って―」と。な、南海?!
 慌てて作者プロフィールを見たら、成程、関西の人なのか。
これで一気に地元密着な感じのSFと言う初めての感覚に陥りました。
 オマケに出て来るわ出て来るわ、アニメから特撮、SFの小ネタ。エンタープライズやヤマトは勿論、アルカディア号や身長57m体重550tネタまで。(何故私も解るんだ…。)
うわー…斜め上におもしろ系SFだった。
 会話も関西弁が混じってるやら、ついには陰陽師、手塚治虫まで―。

 短編集なので勿論色々な話があり、OPがこれだったので最初のイメージが固まっちゃいましたね。
 タイトルの『イルカは笑う』は、人間の次に地球を支配したのがイルカと言うSFですが、最初から怪しんでいるせいか、イルカの企みが透けて見えてあっと驚くとかはなかったかな。でもイルカ、表紙の絵からして可愛いんだもん。もういいよ、主人公は騙されたままで。ちなみにヒカシューの曲名だ。
 そして悟りとは、人間の定義とはを語り掛けてくるような禅問答のお話。
これも仙人や高僧に思わせてからの、ある意味ありがちなSF展開に持ち込むが、しっくりハマってるのが見事。
 既に読んだ事のあった『あるいはマンボウでいっぱいの海』みたいに落語的なお話まである。(元ネタは『あるいは牡蠣でいっぱいの海』なんだけど、これ、最近翻訳が変えられて『さもなくば海は牡蠣でいっぱいに』になっちゃったらしい。元の方が良いな…って、これ、『どんがらがん』に入ってた話じゃん?!まさか読んでたとは。)

 ―何にせよこの本は元ネタが自分の中にあればあるほど面白い見方が出来る、バラエティに富んだ攻め方をしてくるSF短編集です。
夢みる葦笛

 SFなのかファンタジーなのか、短編集という事で手に取った。
すると、確かに摩訶不思議なお話なんだけど、ほんわかファンタジーとかでなく、全く以って怖い。
ホラーじゃないんだけど(と思う)。
 ただ、SFの、ファンタジーの、そのオチが重くて暗い。希望や余韻を上回る絶望が常にラストに漂っている。
 例えば死地に赴く男はやるべき事をやり切ってさっぱりしてるんだけど、どう考えても化け物の群れから生きて帰ってこれない。
例えば奇妙な生物が人々に受け入れられだしたが、自分には悪魔の様にしか思えず、浸食されて行く世界に我慢出来ず退治に乗り出すが、自分の方が人間から反撃に合いそうな状況。
 色んな種類の葛藤が詰め込まれていて、舞台こそSFだが、人間的な部分でその絶望感に身震いする。
なかなか重みのあるショートショートと言う感じか。
 予想以上に読ませてくれました。
世界の終わりの壁際で

 近未来。ゲームに勝ち進めば『壁』の中の街に住める。壁の外側のスラム街に住む主人公はある日少女と出会い―と言う良くありがちなライトノベル的あらすじだったのですが、読んでみると成程、ゲームは金を稼ぐ手段でしかないのね。
 とてもSFチックな話で、ゲーム(対戦バトル)をバーチャルで行うため、自分の補助人工知能など、そこら辺が見た目にも分かり易いSF感か。

 その通り、確かにこの作品には解りやすいモチーフが溢れている。
 このバーチャル戦闘もそうだけど、壁で隔てられた選民とスラムの対比や、いずれ来る洪水から逃げるために街はノアの箱舟として存在している、とか。
一昔前のSF感なんだけど、その分世界観の馴染は早いな。(巻末の選評でもそこら辺マイナスに書かれていたけど、これだけ出し尽くされたジャンルで常に新しい物を望まれるのって最初から壁が高い気はする。かと言って新感覚を詰め込んだ作品ってわけのわからないものも多いし、一概に斬新だから良いってわけでもないよね。この世界観を安定と取るか古臭いと取るかで評価分かれそう。)
 ただし各キーワードは古臭いものではあるのだけど、読ませる力はあった。
ありふれた設定に、ミドルティーン主人公、美少女キャラを出してきたり、自分に従う人工知能、強大な力、ゲーム―と、オリジナリティは感じられないまでも、ストーリー展開や各キャラの主義主張ははっきりしてる。(例えばこれを中年主人公、ノーヒロインとかでやったら相当ハードボイルドでハリウッド的な話になりそうだな。ただ若さ故の希望あるのみの行動などは違ってきそう。)
それこそ黄金パターンかもしれない主義主張だけども、どれもこれも自分が良かれと思う正義や理屈で、ぶつかる所も自然。
 唯一思考が読み切れないのは強大な力とされる人工知能(もはや人間と同じ)だけど、これの過去話は…なんでそんな事になったのか、今との性格の違いが掴み切れなかった。
主人公との信頼関係?理屈じゃない単なる話の流れかもしれないけど。

 ラストは、今後の展望が曖昧なもの過ぎてディストピア感は否めないんだけど、まとまりが良く収まっていると感じました。区切るならここだし、冗長にならない。
 持ち歩き用に文庫サイズだからと手に取ったのだけど、暇つぶし以上の読み応えはあり、一気読みしてしまったのは嬉しい誤算でした。
SFまで10万光年以上

 続きも読んでみた。
これ、本当に亡くなる一歩手前までの原稿なのねぇ…。最終頁ら辺は物悲しくなるわ。
 この巻にはお師匠様シリーズのカラーイラストも載ってるし、そのキャラらを使っての別コラムとかもたくさんあって嬉しい限り。
なんかいい感じに馴染む絵なんだよなぁ、この人は。特別スタイリッシュとか、好みとかでなく、落ち着くし嫌らしさがない。
 もう新たな作品を見る事は叶わないけど、読んでる間は楽しい気分にさせてくれる一冊です。
SFまで10000光年

 ああ、このノスタルジックな絵柄とコラム形式。
その昔自分の人生でSFが最も魅力的に囁きかけてきた頃を思い出します。
年代的にはそれより下だろうけど、お兄さんお姉さんが読んでいるSFって感じだったんだよなぁ。
 そんなSFなコミックエッセイ。
古今東西のSFに関する話題やネタ、熱い思いなど―。

 ―って、途中で気づいたんだけど、この本、『お師匠様は魔物シリーズ』の挿絵の人じゃん!
知らないで手に取ってましたが、何と言う運命。
 この人の絵は描きこみ文字も多くて、それが挿絵でも面白かったんですが、たっぷり一冊丸ごと読めると言う。
 しかもSFだけでなく、アニメやゲームのネタもたくさん。いやぁ、いいわぁ…と、最後の解説まで来て知っアのですが、お亡くなりになっていたのですね、この方。うわぁ…ショック…。もうこの人の作品、見れないのか。好きだったのになぁ…。
 じっくり読みたい一冊です。