元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
キミの名前

 タイトルだけ見て、君の名は、とそら見した。
箱庭旅団 [3]という事で、なんだかシリーズなのですね。
中身は短編。時々思い出したように続いている。

 『マミオ、地球を去る』
猫型宇宙人なので漫画で見たらさぞかし合いそう。
 『シュシュと空きカバンの住人』
折角親切にされたのに無視しなくても。
 『俺と兄貴が火曜日に』
時間改変ものだが、良い兄弟。これ、永遠に同じ日をめぐる心配はしないのか。
 『跨線橋の秋』
じんわり良い話。最期の時間に、こんな事出来るかなぁ。
 『クリスマスの呪い』
ダジャレ落ちだが、この名前ときたら…。
 『鬼が来る正月』
何が本当か解らなくなる怖さ。鬼から守るとはいえ、現実も守ろうよ…。
 『よいち異聞』
こんな文体も行けるのか。古文じみていて非常に読み辛かった。
 『さよなら、旅行者』
あ、色々な所で出てたトラベラーの話がついに聞ける?!こういう、カメオ出演系っていいよね。
 『シュシュ、途方に暮れちゃって』
シュシュの続きまで読めるとは。これ、わざと話を切って後から続けるとか、上手いよなぁ。
 『バルル原理』
最期のオチにも捻りはあるが、基本これは人間の身でも動物の言ってる事の方が理に適ってると思うな。いいよ、人間には秘密の原理で。
 『サトミを泣かせるな』
そしてここへきてホラー。さらっと本気ホラー。
 『夢見王子』
これもある意味怖いんだよなぁ…。夢との境界線や、堕ち方。
 『ボブ論争』
最後暗い話になるかと思いきや、おのれ親父。
 『キミの名前』
エピローグとごっちゃになりかけなんだけど、結局これが旅行者なんだろうか?
そもそもこの本プロローグが無かったけど、『3』ってそういう事?分冊なの?シリーズだったの?
『1』から読まないといけなかったかぁ…。短編連作だからいけると思った。

 しかしこの人、まるで関係なく手に取ったけど『鏡の偽乙女 薄紅雪華紋様』の人なのね。
最後の最後に作者名確かめて気づいた。
 うん、この人、本気のホラーか、SFっぽい話の方が合ってる気がするな。
異次元を覗く家

 ボーダーランド三部作…との事でこれが何番目に読むべきものなのかも知らない。
けど独立した短編で、世界観が共通と言う程度の物なら問題あるまいと、何せ古典SFホラーという事なので読んでみました。
まぁあらすじは単純。
 主人公らが釣りで訪れた田舎、その廃墟に残った一冊の日記。そこにはとんでもない化け物があちらの世界からやって来ると言う恐ろしい記録が残されていて―と言う感じ。
S…F??ううん、まぁ定義はないようなもんなんだけど、古典ホラーと言う枠組みでいいかと。
 化け物へ(いつ襲われるか、どうなるのか)の恐怖感はひしひしと伝わってくるのですが、最終的に日記は当然、日記の主がどうなったかの後日談を語るわけでもなく、断筆状態。
主は一体どうなったの…?と言う後引くありがちな終わり方です。
 日記を拾った側に災難が襲い掛かる系の話じゃなかったのは意外。伝聞形式にするための設定かな?

 が、これをありがちと言うのは現代の多種多様な凝りまくった物語を当たり前の様に読んでいるせいで、目新しさがないと言うだけの話。
何せこれ、古典と言う所がミソなのです。。
 余韻を持たせたり、化け物そのものよりも逃げている時の恐怖感や、今後の不安感と言う引き立たせ方の手法は、当時の単純明快、ダイレクトなホラーばかりだった中でも、目立ったんじゃないだろうか。
 何せラブクラフトっぽいなぁ…と思っていたら、ラブクラフトよりも先に書かれているんだもん。(実際にラブクラフトが注目していた作者の様です。)

 さらっと読んだのですが、私的に可もなく不可もなくと言った所。
血液と石鹼

 SF短編集…と思って手に取ったんだけど、あれ?なんか…違う感。
概念とか、象徴とか、そう言ったもので進む『現実世界に則していない(ある意味SF)』的なお話ばかりです。
 …物理要素にSFがないと、ちっとも入り込めないな。
妄想話なわけでなんでもアリになるだけで、意識高くして何かを解釈出来なければ置き去りを食らう。そう、その解釈までも。
これ、どうもアメリカ文学と言う位置付けらしいよ。
 へぇ…なんと言うか、アメリカ文学は…正直肌には合わないんだよな、今までの経験上。

 文体はまぁまぁ、モチーフが飲み込み難易度高し、全体的にオールジャンルな話を詰め込んでいるバラエティさはあるものの、これが好みと言うものは無し。ちょっとイマイチな読書となってしまいました。
量子怪盗

 えー、もうこのタイトルだけでドキドキするんですけど。なかなかない組み合わせの単語だと思いません?ただ原題がクォンタム・シーフなので、シーフと聞くと…怪盗と言う単語と釣り合っていないのがちょっと。ないの?怪盗的な単語。
直訳だとイメージ的に量子泥棒、量子盗賊、だよね。

 しかしもうね、設定が凄すぎて、世紀の、いや宇宙の大怪盗が精神だけで囚われている檻の中、いきなり彼の前に超戦闘能力を持った美少女が現れて、さぁ、脱獄しましょ―と、ちょっと美少女と言う単語の乱入に萌えジャンルじゃあるまいなと警戒しちゃった。
そしたら後書きにも日本的な萌え要素をぶち込んできて云々…みたいに茶化して書いてあったので、あ、そう思うのは自分だけじゃないんだとちょっと安心。
 この本、設定からわかる通り、いやそれ以上にガッチガチのSF。SFは好きな方だけど、久しぶりに読んだらこのノリについていくのに相当脳みそのウォームアップが必要でした。
 えーと、まずエログロが若干あるのはいいや。これはSFと関係ない。
ただ、この世界、主人公が精神だけで囚われていたと言う事からも解るように、万物なんて皆精神の乗り物、人間の命は記憶の積み重ねよ、みたいなもので―つまりはPCのハードとソフトのイメージなのね。姿なんて自由自在。命は記憶の継続性。
記憶もアップロードで瞬時に共有出来たり、コピーしたり、ハッキングで情報を取り合ったり…。
 主人公も牢獄の中で何度も死んでは、コピーを作られ、そもそも自分がどのコピーの自分なのかもあやふや。脱獄してから新しい肉体を与えられたが、それも原子を組み合わせて作られた精巧なもの。
 例えばこの世界で人の死と言うものは時を使い尽くした事を言う。時間が底を尽き死ぬと、何かしらの物質に入れられ、ひたすらに何の自由もなくその物として働く事となる。
働いて金(この世界では時間。これで生きていられる=自由な肉体を持つ)を稼ぐまでは人間として文字通り存在していないわけ。
乞食は時間をお恵み下さいと、時持ち(金持ち)たちに群がる。
 或いは殺された人間が、そこら辺にある物質の中にその精神を一緒に構築し直されて、一つの物体にされてしまい、気付かれず放置されている―。
などなど。
 この世界特有の怖さや厄介さ、命の境目が曖昧な部分、時間が財産と言う価値観、こう言う『独自世界』の設定有りきの正統派SFでもあるのね。
 
 ―まぁ、このルールを飲み込む、ここまでがしんどい。
読んでいてもそう簡単に概念を想像で超えられないし、新しい単語を覚える煩雑さ。そこはどうしても超えないといけない最初の壁になります。
 描写としても、チョコレートに練り込まれたパティシエの死の記憶…とか、気が狂いそうになるよ。シチュエーションも怖いけど、解釈が、いや、理解が追い付かなくて。
 逆に今は時を無くし、再び稼ぐまでは働く機械として存在している父親と会話(言葉は交わせない)するシーンなんかはグッとくるし、煌びやかなパーティで、流れる砂自体がドレスになっているなどの描写はビジュアル的にもうっとりする。
 他、私が大好きなSF設定のひとつに、宇宙船に女性の精神体が入っていると言うのがあるのですが、この作品にもありました。
 とかく、SFの良い所悪い所全部詰まっている世界です。

 時が経つにつれ、大作を読む読書力が衰えて行くもんで、なんとかかんとか、雰囲気やイメージを必死で掴み読み進めて行くわけですが、実はこの作品には怪盗に対する探偵も出てきます。王道、華麗なる対決―と言いたい所ですが、如何せん探偵が若すぎて頼りないかな?
 ホームズへのオマージュはやたらとこの作品に出てくる、その割に、探偵はそう万能キャラでもないんだよなぁ。
 実際の所、怪盗の手口は鮮やかなもので、このSF世界のルールを逆手に取り、時が尽き、物体へと転生処置される人物の時を死ぬ直前に少しだけ盗み取り、自らも仮死状態で同じ死体安置所に潜り込む。そこで蘇生、ターゲットへ時を返し、生き返らせて接触を図る―など『ならでは』の展開が多く、ある程度まで読みこなせると面白い部分が増えてきます。
 最後にはこの怪盗と探偵の因縁自体も作品的などんでん返し(?)になっているし…。
 それから肝心の怪盗が狙う物、がなにやら分霊箱ネタに思えて仕方が無かったのも読後に残るな。
こうして思うと、魔法と科学は同じような事を違うシステムでこなしているんだなぁと何気に思えます。

 ところでこれ、三部作の第一部らしいと読み終わって気づいたんですが、この一巻だけで完結はしているし(エピソード引っ張ってるけど)、ややこしいと言えばややこしいので続きは…もういいかな。
久しぶりにSFガジェットに悩まされつつ楽しませてもらった作品なんですが、時間がかかった。
 それでも最初は重い、ややこしいとか思っていたけど、読み終わってみれば後半になるにつれ、意外とドタバタでもあるストーリーだなと気付けました。
 後書きが過不足なくこの作品をよく説明してて、もうあれだけで理解した気になれますね。
西暦3000年の人類

 アシモフ。
作品でなく、彼が脳内に描いた3000年の未来の世界がどうなっているかのお話。
偉大なるSF作家の彼が書くのだから、相当適格か、或いはインスピレーションに溢れた未来のビジョンが見れそうです。

 で、いざ読んでみるとこれまでの数千年も書いてあって、ほとんど歴史書。
アシモフってSFのイメージだから過去を語る所なんて想像もしなかったけど、そうか、未来を語るには過去の流れを把握しないと、リアリティは生まれないんだな。
驚くほどどの時代も分析され、手抜きでない歴史のなぞらえ方と解釈をされています。
 で歴史が苦手な私は呆然。
ちょっと怯んで先に未来の方をメインに読んでみるのですが、うん、難しいな!
小説じゃないと、こんなに難解なのか、未来とは。

 改めて過去の最初から順を追って読んでいくと、おや、歴史に割と関心がない私にも割とすんなり読めます。
覚えられるかは別問題として、この人、自国のみならず世界の歴史、あまつさえ文化や宗教をもきちんと把握して、起こった出来事ばかりかその流れや原因をも自分なりの考えの元組み立てて説明出来ちゃえるのね。
 歴史の事実など人それぞれの解釈ですが、少なくとも自分の中で完全に消化されていなければ語れないはずです。
 こういう、現象のみならず原因を捉まえる態度と言うのが非常に好ましく、かつ優れたSF作家であると言う事実の裏付けを見た気がします。
 日本の事も書かれており、良いも悪いも外から見て我が国が客観的にどういう国なのだと言うのが知れて面白かった。まるでフィクションの中の知らない国の話を聞いているような不思議な感覚です。
 
未来を語る歴史書、この本はそんな一冊でした。