元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
古典落語 6

 若旦那、幇間篇。
 まぁ急いで読んだせいもあるんだけど、なかなか…オチが解らない話が多かった。
くっ、知識が足りない。最後の一言でどう落ちたか解らなかったときの悔しさときたら…。
 比べてみて解るのは、遊郭物の方がはるかにオチが分かり易かったと言う事か。はてさて。

 このテーマで絞る落語本、読み比べるのも悪くなさそうです。
どのテーマだと自分が理解が深く、好ましいのか、探せそう。
くれなゐの紐

 表紙絵が美麗です。
まぁ最初はあらすじで選んだのだけど。

 時は大正、女たちだけのギャング団に、姉を探しにやってきた少年が、女装をして入団。
団長は逆に男装の麗人だわ、女たちは見目麗しくひと癖もふた癖もあるような者ばかりだわ―。
 彼女らは女ならではの方法で、摺りに物売り…と表の世界では生きていけぬ身の悲しさを背負ったまま、過酷な世界を生き抜いているのです。
 もうこの設定だけで耽美な世界を妄想するのですが、一昔前のやたらと大人を意識した芸能界の少女たちを思い浮かべるド迫力。(今の芸能界の幼っぽさとは正反対だね。)
 何せ下は12から、上は21までと言うギャング団で、二十歳そこらでこんな切った張ったの胆の座り様。怖いわぁ…。
 生き急ぐかのようなまさに徒花の乱舞する中、暴力あり、抗争ありと話は進んでいくのですが、女ならではの悲哀がそこかしこに。それでいて普通のヤクザものと同じくらいに熱く、激しく、一人一人の生き様がぶつかり合います。
 自分なりに貫きたいものが、違う者から見れば道理に合わないものだったりと、出て来る女たちの矜持は一人一人違って、また堂々としていて―。

 流される様な添え物の女はこの物語には出てきません。
ただ誰が最後に笑うのか、と言った所でひとり以外は敗者なわけで、一人一人のハッピーエンドは望めません。それどころか勝者すら、決して幸せとは言えない先行きのラストです。強いと思っていた女が弱く、逆も然り―。
 主人公の少年は、姉を追い、女たちの生き方に触れ、どうしたってすべて救えない状況の中、やれる限りを尽くすといった答えを出しました。
彼を主人公とし、姉を追い姉の答えを知りたかったと言うこの本の道筋は、綺麗に締められています。
 ラストの彼は、序盤の頃と比ぶべくもないしっかりと自分の足で立っている姿で、こんなにも闇の中を歩いていながらも清廉なのです。

 読み応えのある一冊。
あんまり見ない気色とジャンルの本だと思います。
超高速!参勤交代

 映画を見逃しましたんで、今更小説の方を。原作か…と言うより、脚本の人が小説を書いたようで、はて、これはどっちが先なのやら??(同時らしい。)

 以前に参勤交代を描いた別の小説を読んで、やはり無理難題な参勤交代をどう成功させるかがテーマだったのですが、そんなジャンルが出来つつあるのか、不思議なネタです。
 あれに比べるとこちらはかなりライトで、コメディ的なもの。
余計な説明はあまりなく、それこそ脚本の様に会話と場面切り替えでポンポンとテンポ良く話が進む。
騒動を予感させる忍者もたくさん出て来るし、基本的には苦悩もあるが、楽観的な幸運も多い。
 あー、なんか確かに映像にしたくなる感じだわ。

 またこの殿が不正許さじ、地味でも貧乏でもいいじゃないと、自ら農民に混じって温泉に入るような好感度の高い領主。周りに担ぎ上げられるよりは自分から『みんな頑張ろう』と参勤交代に体を張っていくスタイルで、これも上手く話が進むと爽快な感じ。
成程、色々と超高速なのね。
 後半に行くにつれ、一人一人のドラマとか、辛い展開が続くんだけど、ピンチの連続をとんとんと乗り越えてラストの気持ち良いハッピーエンドまで、とにかく一気呵成に楽しめる一冊。エンターティメントとして期待通りでした。

 続刊もいっちゃいたいな。そう、あるんですね、これも映画になってます。『超高速!参勤交代リターンズ』。
 この人、お伊勢講とか国替え引っ越しだのマラソンする侍だの、この手のジャンルが得意みたいねぇ…。面白そうだわ。
一路 下

 上巻の中でも、要所要所の侍や人々が、いちいち熱くてぐっとくる彼らの背景とエピソードが多いのですが、下巻でもそれは続きます。
 なんとしてでも予定通り参勤行軍を続けたい主人公と、無理はせず回り道をせよと言う宿場の責任者。
どちらも己が務めに誠意を持った上での意見のぶつかり合いだが、悪しくも殿がその是非を決める事となってします。
これには殿、大弱り。
どちらの者もよくやってくれており、片方を立てると言うわけにはいかない。
 この先、毒見と医者、お殿様同士の克ち合いと決断を迫られるシーン満載で、ここまでくるとお殿様の資質もバレようもの。
やはりこの殿さま、うつけなどではなかった―。
 のほほんとして見せかけながらも、その判断や結果に間違いはなく、殿の実力を見抜いている他藩の者達もちらほらと…。
 一方、お殿様同士は上下関係が大事、その危うい所で殿が失敗して失脚すればよいと企む輩らは、なかなか思うように事が進まずイライラ。
殿は臆病者だから刀は抜くまいと、喧嘩っ早いお付を付けるとか、てっとりばやく毒薬を盛ろうとか…参勤行軍以外にも事件は起こりまくるのです。
 下巻は殿の活躍が多くなってくるのですが、一方主人公の方は、道中に出遭った姫に一目惚れされたりとロマンスも。
一瞬応援しかけたが、いや、婚約者居たわ、この人。
身分違いもあるけれど、まるでその気になっていない主人公がこれはこれでどうかと思えた。
姫の方のエピソードは切ないものだったしね…。(まぁ百万石のお姫様と他藩の下士侍じゃ絶対的に無理な組み合わせですけど。)

 さて、行く先々で縁やゆかり、誠実さで味方は増える。
彼らは蔭に日向に参勤行軍に加勢してくれるのですが、どの人々も生き様が、大和魂が熱い。
 義に死するのは今の時代から見ると到底ナンセンスに思えるけど、だからこそ殿の腑抜けと言われようが人や実を大事にする姿が生えるって言うのもあるわ。
死んで花実が―、正に。
 下巻の後半は怒涛の様に過ぎ、もはや悪者達にすら一本筋まで通る始末。モブまでもが人の心意気を見抜き、とことん居住まいを正したくなるようなエピソード満載。
 無事江戸に付いたその後も、最後まで息つく暇なく大舞台は上様との対面に行き付くのでした―。
(これ、参勤交代が3年制である前の話なのね。なるほどなぁ。)

 ハッピーエンドでホッとすると言うより、読後は清々しさと、己の生き方を問い直される作品でした。
良書。おススメ本。
ストーリだけでなくキャラや、時代小説だと言うのに読み易さ―どれをとっても文句の付け所がありません。
一路 上

 軽妙な語り口調で始まった物語。
最初の数ページで引き込まれました。
 主人公の『一路』と言う名前、その数件のエピソードだけで、不思議と主人公のイメージが湧く。
浅田次郎って大御所過ぎて読んだ事がなかったんだけど、やっぱり筆力が違うのね…。
 お話自体もどうなるのこれ!?とすぐに夢中になり、早々に続きを手に入れる手配をしました。

 一路は、学業武術をみっちり教え込まれていたおかげで、士族としてのお役目の事はまだ父から習っていない20歳にも満たない若者。
それがいきなり父親が不始末で死去。
殿から参勤行軍のお役目頭を無事やり遂げたらお家取り潰しは無しにしてやるといきなりの大役を命じられ―。
 まぁ、一路の家は先祖代々そのお役目の家柄だったのですが、一路の名前が名前だし、諸芸全般エリートのはずなので、変に出来るだろうと思われちゃってるのですね。
まさか全くやり方も知らないと思われず、一路は「出来るわけない。失敗したら腹切り、お家取り潰しだなぁ」と言う状態で奔走する事になります。
 親戚やら周囲の士族たちは、此度の父の不始末(在ってはならぬ失火で亡くなった)のせいで、一路に何の手ほどきも協力もしません。
途方に暮れる一路の前に、焼け跡から見つかった一冊の古書が―。
 一路は学があったので、その本を読む事が出来たのですが、それは何と一路の遠い先祖が、参勤行軍の作法を書き記したものだったのです。
 しかしそれはどうやら今の物とは似て非なる作法で、一度はこんな昔の物はやはり役に立たぬかと諦めかけるのですが、ひょんな事から流れ者の易者に出遭い、「昔のやり方が本来正式なもののはず。知らぬならいっそこの本通りの古式ゆかしい作法にしては?」と目から鱗のアドバイス。
こうして一路はその本を基に、お役目の準備に入るのです―。

 最初の流れ物の易者、然り。この後一路には普通ではお役目に使われぬような人々との出会いがたくさん待ち受けています。
頭が足りぬ怪力の双子。
流しの髪結い屋。
世俗慣れしすぎた坊主。
そして顔も見た事がなかった許嫁の娘や果ては馬まで―?
 手探りで本来の作法を復活させようとする一路は、スタートこそ人に見放されたが、彼自身に集う人運はあったようです。

 道中ハラハラしながらも、途中で主人公視点から殿の視点に入ります。こちら側がまたおもしろそう。
この殿、正妻大好きで側室は嫌々置いていると言う、どうも威張った感じはしない不思議なお人柄。
 実は殿は傍目にはうつけ者扱いされているのだけど、彼の心内を見ているととてもそうとは思えない。
下々を大切にし、宝物は物でなく人だと言うし、配下を怒れば人死に、褒めれば慢心を生むと心得ていて、曖昧で差し障りのない言葉しか吐かないようにしている。
 その様子がうつけに見えるのだけれども、殿さまなんてものは私心を挟まぬ程良い殿だと殿自身が思っていて、自分を殺してお務めを果たしているのです。
 では切れ者かと言うと、そうとも言えず?ただただ純粋に正しくあろうとしている人という感じ。
戦物語を聞かされその気になったり、主人公の馬の誤魔化しを神の奇跡だと喜ぶ。
 そんな殿、実は御身を狙われていると言う事が段々解ってきます。
この参勤行軍には、お家騒動も絡んでくる?!

 ここまで、なんとも不思議な人の縁ととんでもない幸運で難所を次々とクリアしてきた主人公だけど、まだまだ旅は始まったばかり、一体この先、どんな苦難無理難題が待ち受けているのか―?
頁をめくる手が止まりません。
 下巻へ続く。