元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
一路 下

 上巻の中でも、要所要所の侍や人々が、いちいち熱くてぐっとくる彼らの背景とエピソードが多いのですが、下巻でもそれは続きます。
 なんとしてでも予定通り参勤行軍を続けたい主人公と、無理はせず回り道をせよと言う宿場の責任者。
どちらも己が務めに誠意を持った上での意見のぶつかり合いだが、悪しくも殿がその是非を決める事となってします。
これには殿、大弱り。
どちらの者もよくやってくれており、片方を立てると言うわけにはいかない。
 この先、毒見と医者、お殿様同士の克ち合いと決断を迫られるシーン満載で、ここまでくるとお殿様の資質もバレようもの。
やはりこの殿さま、うつけなどではなかった―。
 のほほんとして見せかけながらも、その判断や結果に間違いはなく、殿の実力を見抜いている他藩の者達もちらほらと…。
 一方、お殿様同士は上下関係が大事、その危うい所で殿が失敗して失脚すればよいと企む輩らは、なかなか思うように事が進まずイライラ。
殿は臆病者だから刀は抜くまいと、喧嘩っ早いお付を付けるとか、てっとりばやく毒薬を盛ろうとか…参勤行軍以外にも事件は起こりまくるのです。
 下巻は殿の活躍が多くなってくるのですが、一方主人公の方は、道中に出遭った姫に一目惚れされたりとロマンスも。
一瞬応援しかけたが、いや、婚約者居たわ、この人。
身分違いもあるけれど、まるでその気になっていない主人公がこれはこれでどうかと思えた。
姫の方のエピソードは切ないものだったしね…。(まぁ百万石のお姫様と他藩の下士侍じゃ絶対的に無理な組み合わせですけど。)

 さて、行く先々で縁やゆかり、誠実さで味方は増える。
彼らは蔭に日向に参勤行軍に加勢してくれるのですが、どの人々も生き様が、大和魂が熱い。
 義に死するのは今の時代から見ると到底ナンセンスに思えるけど、だからこそ殿の腑抜けと言われようが人や実を大事にする姿が生えるって言うのもあるわ。
死んで花実が―、正に。
 下巻の後半は怒涛の様に過ぎ、もはや悪者達にすら一本筋まで通る始末。モブまでもが人の心意気を見抜き、とことん居住まいを正したくなるようなエピソード満載。
 無事江戸に付いたその後も、最後まで息つく暇なく大舞台は上様との対面に行き付くのでした―。
(これ、参勤交代が3年制である前の話なのね。なるほどなぁ。)

 ハッピーエンドでホッとすると言うより、読後は清々しさと、己の生き方を問い直される作品でした。
良書。おススメ本。
ストーリだけでなくキャラや、時代小説だと言うのに読み易さ―どれをとっても文句の付け所がありません。
一路 上

 軽妙な語り口調で始まった物語。
最初の数ページで引き込まれました。
 主人公の『一路』と言う名前、その数件のエピソードだけで、不思議と主人公のイメージが湧く。
浅田次郎って大御所過ぎて読んだ事がなかったんだけど、やっぱり筆力が違うのね…。
 お話自体もどうなるのこれ!?とすぐに夢中になり、早々に続きを手に入れる手配をしました。

 一路は、学業武術をみっちり教え込まれていたおかげで、士族としてのお役目の事はまだ父から習っていない20歳にも満たない若者。
それがいきなり父親が不始末で死去。
殿から参勤行軍のお役目頭を無事やり遂げたらお家取り潰しは無しにしてやるといきなりの大役を命じられ―。
 まぁ、一路の家は先祖代々そのお役目の家柄だったのですが、一路の名前が名前だし、諸芸全般エリートのはずなので、変に出来るだろうと思われちゃってるのですね。
まさか全くやり方も知らないと思われず、一路は「出来るわけない。失敗したら腹切り、お家取り潰しだなぁ」と言う状態で奔走する事になります。
 親戚やら周囲の士族たちは、此度の父の不始末(在ってはならぬ失火で亡くなった)のせいで、一路に何の手ほどきも協力もしません。
途方に暮れる一路の前に、焼け跡から見つかった一冊の古書が―。
 一路は学があったので、その本を読む事が出来たのですが、それは何と一路の遠い先祖が、参勤行軍の作法を書き記したものだったのです。
 しかしそれはどうやら今の物とは似て非なる作法で、一度はこんな昔の物はやはり役に立たぬかと諦めかけるのですが、ひょんな事から流れ者の易者に出遭い、「昔のやり方が本来正式なもののはず。知らぬならいっそこの本通りの古式ゆかしい作法にしては?」と目から鱗のアドバイス。
こうして一路はその本を基に、お役目の準備に入るのです―。

 最初の流れ物の易者、然り。この後一路には普通ではお役目に使われぬような人々との出会いがたくさん待ち受けています。
頭が足りぬ怪力の双子。
流しの髪結い屋。
世俗慣れしすぎた坊主。
そして顔も見た事がなかった許嫁の娘や果ては馬まで―?
 手探りで本来の作法を復活させようとする一路は、スタートこそ人に見放されたが、彼自身に集う人運はあったようです。

 道中ハラハラしながらも、途中で主人公視点から殿の視点に入ります。こちら側がまたおもしろそう。
この殿、正妻大好きで側室は嫌々置いていると言う、どうも威張った感じはしない不思議なお人柄。
 実は殿は傍目にはうつけ者扱いされているのだけど、彼の心内を見ているととてもそうとは思えない。
下々を大切にし、宝物は物でなく人だと言うし、配下を怒れば人死に、褒めれば慢心を生むと心得ていて、曖昧で差し障りのない言葉しか吐かないようにしている。
 その様子がうつけに見えるのだけれども、殿さまなんてものは私心を挟まぬ程良い殿だと殿自身が思っていて、自分を殺してお務めを果たしているのです。
 では切れ者かと言うと、そうとも言えず?ただただ純粋に正しくあろうとしている人という感じ。
戦物語を聞かされその気になったり、主人公の馬の誤魔化しを神の奇跡だと喜ぶ。
 そんな殿、実は御身を狙われていると言う事が段々解ってきます。
この参勤行軍には、お家騒動も絡んでくる?!

 ここまで、なんとも不思議な人の縁ととんでもない幸運で難所を次々とクリアしてきた主人公だけど、まだまだ旅は始まったばかり、一体この先、どんな苦難無理難題が待ち受けているのか―?
頁をめくる手が止まりません。
 下巻へ続く。
山田風太郎明治小説全集 4

 二段組でちょっとだけ怯む感じの厚み。
ううん…読むとのめるくせに、どうしても先にビビるわ、山田風太郎。
 これ、しかし全集なので『明治断頭台』と『エドの舞踏会』の2本が入っている。

 『明治断頭台』は、開国の混乱を極めた少し後、新しい風を受け入れる者、受け入れぬ者で、政治的な思惑の違いの元、政府とはどうあるべきか、と言う大志を基に動く男たちの話。
一応主人公とそのライバルのような関係の男は、親しい間柄だが、政府が正義であるかどうかで意見が違う。
 腐敗した政府が悪いと言うどこまでも厳しい主人公と、いや、確かにそれは悪いが、理想論だけではやっていけない、清も濁も必要と言うライバル。
 そんな中で章毎に政事にも絡む奇妙な殺人事件が起こり、主人公が解決していくと言う連作。
 政事とは言え、明治と言う時代の事、そこには武家の思想も未だ残っており、政略結婚だの、外国人差別だの、お家同士のあれこれだの、単純に『政治』の事件ではない。
成程、この時代ならではの構成だなと思う。
 また、解決するのは主人公、とは言え少し変わっているのは、実際に犯人を糾弾するのは『死人』と言う部分。
正しくは、主人公の囲っている女が巫女体質で、被害者の魂を呼び寄せ、真実を暴く感じ。
 勿論、これは主人公が情報を集め推理し、確信をもって女に教えて演技させているんだろうなと思うけど、当時の風潮的に、まだこれで通じちゃうところがある。これも面白い。
 ただ、この女と言うのがフランス人なのです。で、巫女の格好。違和感…と共に、異国の女を囲いよってと周囲の人間からの糾弾も噴出します。
元より押しかけ女房なのですが、私としては本来の婚約者の日本娘(健気)の方がプッシュだわ、これ。
 主人公はフランス娘の方も嫁にするつもり無し、渡航時に、勝手についてきたとしか言わない。
ここら辺、何か企んでそう。
 まぁ最終的に主人公は、あくまでも己の理想のために生き、死んでいったので、女の事など二の次な気はする。
 それでもフランス娘の身をきちんと守り、日本娘には自分の生き方は危険だから巻き込みたくなかったと告白し、ラストを迎える。
 こうなってくると逆にフランス娘の立場が空しい気もするけど…まぁ、信頼され政治活動を一緒に成した立場と、実は愛され守られていた立場、女としてどっちが良い?と言う微妙なところ。
恋愛小説でもないしね。
 お話自体は結構グロかったりします。
断頭台と言うタイトルの通り、首は飛ぶ、四肢は分断。
 男子たるもの思想を持って生き、死ぬのが当たり前だったような時代に血生臭く、それでいて東洋と西洋が入りまじった華やかで怪しい舞台背景に、その香りや色が濃厚な作品です。実在の歴史的人物もバンバン出てきます。
なんか好きだとか嫌いだとか言う前に、圧倒される怒涛の展開でした。
 ラストだけで、今までの主人公の行動が、執念が見て取れる。

 『エドの舞踏会』は、これが気になってこの本を手に取った作品。
エドって、人の名前じゃなくて、江戸、なんですねぇ。
 これは、鹿鳴館が出来た当時の、実在の人物たちをモデルにした物語。
 これまでも明治辺りの話を読んでいると、鹿鳴館とそれを取り巻く官僚の『奥方』たちが凄かったとちょくちょく書かれていたので気になっていた。
 時代が時代、奥床しさと高潔さが故に、洋装をして踊るなどはしたないと、元々武家の娘であったご婦人方はなかなか舞踏会に参加してくれない。
 夫たちも、いつもの仕事ならまだしも、舞踏会へは夫人随伴とあっては、なかなか難しい。
 それを時に踊りを指南し、英語を話し、洋装で堂々と夫のパートナーとして表舞台へ出てきたのは、元芸者のご婦人方であったと言う実話が元。
 この時代、軍部や官僚たちの奥さんは、芸者から引き揚げられた人が多かったご様子。
彼女らは生まれや育ち、その並々ならぬ人生経験から、気丈にも『新しい時代』に果敢に立ち向かえたのですね。
 実際には舞踏会を中心に、それぞれの夫婦の形を描いた物語がいくつも続いていくのですが、この作者さんのお話にしては珍しく女が主役の(視点は男主人公ですが)ものですので、全く違うテイストの作品として読めました。
かなり面白く、一気読み同然。
何せ彼女ら、強い!
 出てくる男たちは歴史に名を遺す官僚たちなのですが、そんな男ですら時に舌を巻くほどの『強さ』を持っている。
 少女の頃より留学経験を持ち、開かれた思考や語学力を持つ者、夫の妾を目の敵にするどころか、共に夫に一泡吹かせようと画策する者、上品に生活をしていたと言うのに、理不尽で野暮な青年から若い娘を助けるために、啖呵を切って札束を切る者、黙っていれば解らないのに、嘘は嫌だと自分は元遊女だと公言する者…。
まぁ、格好いいは、潔ぎ良いわ…。
 話に上るだけですが、主人に手を出された奉公人が身ごもり、子供を産んだ後、奥方に申し訳ないと自害したなんて話もあり、もうそれを読んだ時には、女の覚悟が凄すぎるやら男が情けないやらで、絶句です。
 とにかく男だろうが女だろうが、一本芯の通っている人間が多いのですよね。また『すべき』事もたくさんあった時代ですから、激しい生き方にならざる得ないのでしょうか。
 男は日本を変えると言う政治に心血を注ぎ、女は女としての意地を見せながら、夫を通じてお国のためと頑張る。
 中にひとつ、夫が浮気した事を知り、怒るばかりかそれを逆手にとって、何故上手く政治的取引の材料にしないのか?と詰め寄る細君がいて、あの時代によくぞそこまで政治的手腕に明るい女性がいたものだと感心しました。
想像するよりも女性が学べた環境だったのかな?
 見るからに内助の功ですが、何のかんの言っても、ほとんどの夫婦は夫の女癖が如何に悪くても、手厳しい一発を返すくせ、結局最後まで添い遂げる人が多くて、それも面白いもんだなぁと思えます。(別れる所はそれはそれで浪漫なのですが。)
 普通に、その当時の鹿鳴館のご婦人方の資料を読むのも面白そうですが、こういう風に小説仕立てになっていると、より一層彼女たちの凄さを感じられて良いですね。
 とにかく格好いい作品です。(なお、実在の人物男性陣らの女癖の悪さエピソードに大体呆れる事になりました。おおよそ政治を語っている時は格好良いのにねぇ…。)
雷獣びりびり

 雷獣が主人公の妖怪系時代劇かと思いきや、雷獣は思考としてのセリフが無くマスコット的なもんで人間主人公がおった。単なるあやかし時代劇…っと。
なんかこうなると某あやかし話と被るのだけど、中身は大分違ったな。

 妖怪が認識されている世界で、それを捕えたりする改方が主人公。雷獣は彼の許嫁(幼女)に飼われている猫です。(大分はっちゃけた説明ですが。)
しかし本気でロリじゃなくて良かったわ。江戸時代ならそんな無茶な許嫁も有りそうなもんだけど、主人公はひたすら彼女の父親への恩義でそれに甘んじている感じ。20代前半くらいか?
 ただむしろ幼女の方がしっかり者タイプなのか嫁気取りと言う感覚らしい。んー、まだよくわからんが、少なくとも妙な落ち着きはあるな。
この娘の母親は剛毅な感じで、河童や武者鎧の妖怪を料理屋で扱き使う感じです。

 割と続いてるシリーズのようですので期待したのですが、数話読んでみて、途中でちょっと首を捻る。
なんでかしら、面白くない。
 まず主人公と幼女の会話が必要最低限でワンパターン。
特別なエピソードを感じさせる会話にならない。
会話や状況で見えて来るべき二人の個性(特に幼女)もまるで見えてこない。
何が好きとか何が苦手とか、お互いの力関係とか。
 これが大なり小なり主人公の他のキャラとの会話、関わり方にも同じような事が言える。
比較的夜ノ介は夜ノ介の方がいろいろ食わせ物で話を進めてくれるから意味も出てくるんだけど、主人公で引っ張っていく展開が印象に残らないんだよなぁ…。
 あと展開の強引さ。
常にタイミングよく幼女&雷獣が主人公を助けに来るけど、この展開がお芝居を見てるみたいで。
 無駄と言う余白がなくお話を作る時の骨組みだけを見ているよう。最低限の展開が故、都合の良い展開にも見えるのかなぁ…?(逆に言うと素晴らしく簡潔にお話をまとめてるので冗長にはなっていない。)

 この一巻の中だけで言うと、終わり近く、いきなり善鬼の話に戻ったと思ったら夜ノ介と因縁深いってのは出来すぎ感があった。
まぁこれは夜ノ介自体改め方に妙な入り方をしているから完全に設定の内でしょうが、妖怪のゲストキャラの様な点のキャラは多いのに、線のキャラが少なすぎて、今は浮いちゃう感じかな。
多分一巻では私は嵌りきらんかったのでしょうね。
 ただキャラには可能性を感じる。
幼女だの夜ノ介だの、人物一人一人の『こういう登場人物が居るよ』チョイスは好きなんだよね。
 ちなみに漫画化されているようでそちらのビジュアルを見たのだけど、幼女も雷獣も可愛いわ、夜ノ介の食わせ物感が出ているキャラデザもいいわ、見ていて楽しかった。
(主人公かっこよすぎだけど。)
もしかしてこれ、漫画で読んだ方が好きかもなぁ…。

 個人的に続きはないのですが、このノリの時代劇はなかなかないと思うので、物語としての印象は良かったです。
えどさがし

  しゃばけ…の外伝?
成程、時間を超えての各キャラ主人公話だね。
 
 佐助が好きなんですが、最初は佐助の過去話。
『五百年の判じ絵』。
何故子守する事になったのかの件。
いやぁ、私ならキツネAもキツネBもこの厚かましさに速攻追い払うね。
佐助は暇だし気まぐれとは言え、人が好すぎる。
この世は皆、天衣無縫のおキツネお祖母様の一人舞台じゃないのかしらと思えるくらいに事を進めてくれます。
判じ絵の謎解きは面白かったし、佐助の承知ぶりも和んだけど、主役が喰われたみたいに感じてしまった。
もう少し佐助が単独で目立つ話が良かったな。過去話なのは良かったんだけど。
 『太郎君、東へ』。
発音が違うとおかしな感じ。
ネネコ親分のお話で、ちょっと珍しかったが、面白かったのが昔話の様に何故川が東へ流れるようになったのか、等逸話の様なお話に、しゃばけのノリでなく読んだ。
川自体を人格としてのキャラかぁ。
これは東へ逃げるわな。
楽しい。
 『たちまちづき』。
妖怪退治の高僧だが、お金は公言して集める寛朝のお話。この人、実を取るタイプで正直だし、駆け引きしつつも真のところで外さないから好きだわ。
妖怪に憑りつかれているからなんとかしろと言われても、妖怪なんぞどこにも見えない依頼主に、どういう解決策を与えるかと言うと―。
まぁ自己解決みたいなもんだけど、気弱な旦那と強気な嫁と言う力関係が逆転するのが心地よい。
 『親分のおかみさん』
病弱なおかみさんだけど、こういう風に強くなるのは良いね。親分さんが本当に愛妻家でほっとする。
子供の成長も楽しみです。
 『えどさがし』は『明治・妖(あやかし)モダン』とのコラボと言うか、繋がりある明治の地で。
ははぁ、妖怪繋がりか。
こう言うの、ファンにとって嬉しいだろうねぇ。
江戸物なのに明治舞台とか、まだまだ明治の空気は怪しさいっぱいだし。
その設定といい、ネタ自体はちょっとファンが書いた二次創作じみた、若旦那が死んで、生まれ変わりを待つ妖怪たちと言うテーマなんだけど、ちょっとそこだけがこそばゆかったなぁ。
でも仁吉視点だから、儚さが漂っていて胸が苦しくなる物語でもある。あんなに強い人なのに、いつもどこか寂しさが付きまとうんだよな、この人。
明治の服装もお似合いでした。