元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
洗えば使える泥名言

 あー、いつ見ても西原氏の本は気楽に読めていいわ。時々ドキッとするような事書いてるんだけど、もう世界が違う過ぎるからそういう意味で流せるし。
 しかしタイトルの紆余曲折がなかなか面白く(カットでさらっと言ってるんだけど)、元々『泥だらけの名言』だか『泥まみれの名言』だったらしく、そんなのは恥ずかしいと反対しまくってこれとか。その理由が、尾崎豊みたいだからとの事…。ああ、なるほどそう言う感じの言葉か。かっこよくって恥ずかしいと言うのもアレだけど、よく尾崎が出て来るな…。(西原氏的には『翼の折れたエンジェル』くらいのこっ恥ずかしさらしいよ。)

 さて、見開きくらいの分量でひとつひとつ『誰かが言った言葉』がエピソードと共に書かれているんですが、確かに深いわ。(でも例えばTVの『深イイ話』なんかは全然琴線に触れないんだがな。何が違うのやら。)
 ただし、いくらなんでもそれはダメだろと言うエピソードも割とあり、決して自分の生き方と比較するもんじゃない、西原氏の軌跡だからこそ活きて輝く言葉の数々なんだと思う。
 あと、洗わなくてもいい。洗うと恐らくわざとらしくなるからね。

 最後の方に、死んだら生きてる人間に勝手に色々捏造されると言うような話があったんだけど、例えばこの人なんか、後世にどう評価され、説明されるのか、非常に興味深いです。

 西原氏の本は、忘れた頃に読むのがいい具合の濃度だなと思います。
解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯

 奇人変人と呼ばれた解剖医のお話です。ノンフィクション。
 しかし本を注文してからすぐに、たまたまこの本のレビューをどこかで見たんだけど、それだけ見てるとどえらい犯罪者と言うかサイコな話だったな。
 この本、タイトルがもう伝記につける感じじゃないよね。フィクション系だよ。
 
 さて、以前読んだ本にもあった外科医の先駆け、解剖医。その研究心留まる事知らず、お上品で古典的な医者(内科医??)の役に立たない迷信や進まない医療を横目に、彼らは率先してその目で、我が手で人間の体の秘密に迫っていきます。
つまり、解剖、死体集め、画期的な外科手術を患者で試す事―。
 宗教的な背景もあるんでしょうか、体を切り刻む事自体がタブーっぽいようで、そりゃ解剖医がめちゃくちゃ言われるわね。
麻酔もなく、酒で酔わせて拷問紛いの痛みに耐えて、各部位切断、それで治らなければ元の木阿弥、治っても部位欠損…と、外科医自体も相当な時代でしたが。
病気部位よりも多めに切るってのが定説だったようですね。
 しかしジョン・ハンター。
難読症で、勉強が出来ず、粗野で短気と人に嫌われながらも、自分の目で確かめ、考える事に関しては誰にも引けを取りませんでした。
 何千と言う死体を掻き集め、切り刻み、構造を知って筋道を立て、独自のやり方でいろんな手術法を確立していったのです。
 それでも彼は、意外にも無駄に切ると言う事をしない医者でもありました。切って治らない様な術を施すくらいなら、自然治癒に任せる派。
ただもうそれだけで内科医はおろか外科医からだって、異端だと謗られてしまうのは致し方ない所でしょうか。果ては同じく医者である兄に、才能を嫉妬される始末。

 物語の序盤は、彼がひたすらに死体を集め、悪びる事なく、毅然として突き進む様子が語られます。
新しい手術法にしても、読んでいて成程な、そんな方法がと感心せざる得ない理論です。(成功してるから言えるんだけどね。)
 そこから続く怒涛の快進撃も、基本的に彼は同じ事しかしていません。ひたすらに雑音は排除、自分がこの目で見た事だけを指針に、異端街道まっしぐら。誰が何と言おうが真実は我が目で見た肉体であり、迷信で治す医者などくそくらえと。
 よくこれでこんなに分厚い本が埋まるよ…と言う程エピソードはあるんだけど、常に同じ展開なのね。意見の相違で喧嘩、喧嘩、喧嘩―。
だけど、面白い。
相手取る人物もいろいろ居ますが、その度にとことんやりあっては前へ進みます。

 これは読む前に思っていた程猟奇的な話で無くて、ただ医学に素直に、愚直に向き合って一生を捧げた、医療物語にしか思えない。
この話を暗く捉えるとしたら、時代背景の方の暗さだろうと思う。
 進化の過程に口を出した時なんて、世界は出来て6000年と言う宗教に、『いや、少なくとも10万年は経っているだろう』説で叩かれに叩かれる。
今や45億年以上と言われる地球の始まりですが、宗教が弾圧してくる事はないですし(個人的宗教家は知らんよ?)、彼なら当時、いや、今の時代に生きていてもやはり相当な革新派の存在になったと思います。

 他、珍しい動物と言った博物学の方にも手を出していた彼ですが、ひとえに解剖、転じてはく製や標本、飽きる事ない肉体の謎への情熱が、ベクトルとなっているんだろうな。
 死して自分の特定部位(病気の部分)を解剖しろと遺言し、そこまでは弟子たちもやってくれたのですが、標本にしろと言う遺言は何の遠慮か果たされず。
 膨大なコレクションは同じく膨大な借金と残され、死してからも彼の不遇は続いたようです。
こうして、はるか未来に彼の先見の明を記録した本が出ようとは、思いも寄らなかったでしょうね。

 分厚い本ですが、つい丁寧に読みたくなる、飽きさせぬ物語でした。
先生、ワラジムシが取っ組みあいのケンカをしています!

 『先生、シマリスがヘビの頭をかじっています!』の続編。
相変わらずの大学生活。
こっちも肩の力を抜いて読みました。
もう前の一冊でどんな感じか解ってるもんね。

 今回はそんな中でもフィールドワークの中身が面白くて、モモンガの巣箱に透明なプラスティック、と言うのがへぇ~、と感心した。なるほど、観察しやすいな。
 しかし学生たちが割と幅を利かせるこの続編ですが、学生たちの先生(著者)に対するコメントが笑えた。
『先生は今まで梯子から落ちた事が無いと豪語した―と同時に落ちた』とか、吹いた。(そして今のは4段目くらいからだから落ちたカウントに入らないとか、落ちそうになったら今の様にするんですよと誤魔化したとか。学部内の和やかな空気が伝わる。)

 タイトルのワラジムシは、実際に取っ組みあいをしたんだそうです。
興奮して奥さんに報告してつれなくされる所もまた良し。(奥さんも動物行動学の研究をしていると言うのに。)
 驚きや笑いの絶えない環境の中で、気になった事をとことん調べてみる。その結果分かった珍しい事。それが学術的でもあったと言う、むしろそれがオマケみたいな生活の話です。
 知り学ぶ事が楽しさであると言うのは、素敵な事だ。
日本って、大変!?「国際」的な高校の青春事件簿

 日本語の授業的なエッセイを思い出した…。
 この本自体も、生徒は高校生ですが、日本語を教える先生の面白い、また文化の相違を感じられる外国文化の子供たちとのエピソード集です。
まぁ、昨今ありがちなテーマで、ネットでもよく見る話です。

 ただ、日本語を知らない人に日本語を、『日本語以外の言語で』説明出来なきゃ日本語は教えられませんと言う当たり前のジレンマが、よーく解りました。
 語り手である先生(著者)は、日本語を深く理解しようとする段階で、どうしても英語もペラペラにならなければいけないと言う外から見れば笑える(本人当惑の)状況で生きています。
 逆も然りで、生徒たちも苦労します。
母国語以外を覚える、教わる、教えるって、大変な事なんだなぁと感じました。
 …大体日本人ですら日本語を正しくなんて教えられないもんね。グラマー始め謙譲だの丁寧だの、怪しいもんだよ。

 あとは文化の違いで、『貴重品』と言う概念をイコールお金だと思っているのは日本人だけで、他は貴金属(お金などただの紙きれであり、国が無くなれば意味がない物質に過ぎない)だの、親の形見だの、水だの、自分が大事にしている何かだの…成程、説明しづらい、そしてそれを選んだ子等に、否定も出来ない秀逸なエピソードだなぁと。
 もう一つ、本の感想文で短く『死』について書く子に手抜きじゃないかと疑って探りを入れてみると、その子の国は殺し合いだらけの国で、そこにいる誰よりもその子が一番死を身近に体験していた事が解ったとか、あるいは国の教育によって感想文すら『世間が喜ぶ答え』で書き上げてしまう子達がいるとか。(その国の子等は皆が同じ内容の感想文を、示し合わせてもいないのに上げて来る。)
 その子たちは、感想文と言うものが『自分の』感想だと言う概念自体がなかったようで、国家単位での思想教育の成果を見せつけられ、著者さんは怖かったそうです。
 ここら辺はただ単に面白おかしく語ればいいと言う異文化エピソードエッセイとかとは違い、ちょっとドキッとするエピソードで読み応えがありました。
老後破産

 まぁ、このテーマですから…暗いですね。
何と言うか良い事が一つもなく老後苦しんでいる人たちの体験話ばかりなので、正直ダウナーな本。
 貯金してればいいのか?金の価値も変わります。
家族が居れば大丈夫なのか?先立たれたらどうにもなりません―。
不確定要素しかないね。

 これが現実だと言われて、目を逸らしたいわけではありません。それならば最初からこの手の本を読む事もないでしょう。
ただ、ではその最悪の未来に救いの手は、そして今から出来る対策などはないのか、それを求めて読んでみたのですが、残念ながらこの本にはその手の手段は何も書かれていません。
 がっかりしました。興味があるが故に、全のために何をすればいいのか、一のために何か手段があるのか。それを強く求めていたのに。
 この本は何のバイアスもかけていない単なる人々の体験記ルポだと思います。
警鐘を鳴らしてくれるのは良いのですが、私たちに何を求めているのでしょうか?このテーマの本なら、解決策はなくとも、せめて何がこうさせたのか、またどこが問題なのかと少なくとも敵の正体だけでも示唆してくれているものかと思いましたが…。
 読後、呆然としてだけ終わりました。
 例えテーマが立派なものでも、問題提起だけで終られると、投げっぱなしな印象しか残らないんだよね…。