元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
第三の時効

 何これ、面白い。
どうやらシリーズ物の第一弾のようで、刑事ものです。
短編連作なのですが、お話の登場人物は大体続いていて、某警察の某課…というのがメインですね。
 しかしこれ、各班長キャラたちやその上司やら部下が立っていて、非常に味がある。
どの人も主人公にしていけるだけの個性的、かつ凄い解決を見せてくれるので、いちいち短編一本一本が豪華すぎます。
毎回手抜き無しのTVシリーズみたいなんです。
しかも必ず毎回唸らせるものがあるとか、凄すぎない?
 タイトルの時効の話もそうですが、手口や、因果、必ずテーマがありつつ、思いもよらぬオチが待っている。
難を言えばやはり舞台が警察とは言え、そんな事案が良く転がっているもんだと言うイベント過多具合?
 や、事件は解るんですけど、人との繋がりや裏切り等、濃度濃過ぎでかなぁ、と。
名探偵のある所殺人あり、みたいなやつ。
ここら辺同一登場人物ものの永遠のテーマですわなぁ。
 シリーズ物という事は続きがあるという事で、そんなに推理小説はがっつくジャンルでもないのですが、普通の作品としても読みごたえがあるので、機会があれば続きも良いかなと思います。
連続殺人鬼カエル男

 蛙のせいか、『ミュージアム』を思い出してしまう…。

 さて、意外に物語はシリアルキラー的なイメージよりも、淡々とした別々の殺人が、結果連続殺人になっている思えて不思議な感じ。(あくまでも作中は連続殺人の話です。読み手の感じ方の話。)
何と言うか、被害者に繋がりや共通点が見えないのね。犯人は確かに同一人物だろうけど、狙っているように見えないので怨恨とか、陰惨なものを感じない。
(後々ああ、連続殺人に見せかけたあれか…と言うこの雰囲気が解る仕立てではあるんだけど。)
 むしろ、グロ…と言うよりも暴力描写がメインっぽくてちょっと嫌だったな。
いや、死体は勿論グロなんですが、そこよりも生きている人間同士の暴力が詳細かつ丹念に(なぜそこまでページを割くんだと言うくらいに)書かれている。
おかげで肝心の事件の解ける様とか、殺人鬼の方の話よりも暴力沙汰ばかり記憶に残る。
 うーん、書きたいのは何よりそこなんだろうかと思えるくらいの勢いと配分だと思っちゃったわ。
 特に警察が暴徒に襲われるシーンと、犯人と主人公刑事のガチバトルシーン。
痛いなぁ、痛い。
 殺陣を文章で説明するかくらいの書き込み密度なんで、逆にその密度を事件の解ける流れや、主人公の推理、ひらめいた過程などミステリー部分に使って欲しかった。アクションシーン以外は割とさらっと流れてるからね。

 そして分かり易いほどのミスリードで犯人を描いてる部分は、犯人が逮捕されてからもどんでん返しが来るだろうなと言う予測を裏切らずきちんとどんでん返し在り。
どんでん返し前までも普通にハラハラしつつ頁は繰れますし、むしろ分かり易さの意味で褒めてるつもり。
 叙述トリックと言い、ミステリー好きの読者が想像するだろう所に落ち着く部分は、意外性はなくとも安心して読める、それでも読ませる構成だと思った。
―のだけど、これ、もっと入れ子細工のお話でした。
さらに、その先があった。
 …うーん、確かにそれでようやく思いも寄らぬところに落とし込めるんだけど、正直この手前で止めてた方が、新しさはないものの、綺麗に終わった気がする。
だって、そこまでの入れ子犯罪…可能性、すごく低くならない?ちょっと無理な流れかなぁ…なんて。
 人によると思うけど、ラストのラストは、私は無しでも良かったかなぁと思った。
ただ、締めのオチ自体の皮肉さはニヤリと出来るけどね。
 総じて読み易く、一気に楽しめる一冊だと思います。
うまい犯罪、しゃれた殺人

 サブタイトルでヒッチコックの名が出ていたので。
(て言うより実際ヒッチコックのやつなのか。)このタイトルはまた実にそそる巧さだ。
そう、私が大体ミステリーに求めるのは、上手い犯罪、確かにそう。しゃれてるのは…別にどうでもいいけど、唸らされるような、鮮やかな手口を見せて欲しい!
 で、これはTVドラマの脚本…あるいは、TVドラマ化されました、的なやつなのかな。
短編ずらずらと、そしてミステリー。

 中身ですが、手口が上手い…と言うより奇妙な偶然によって失敗したりする犯行の話が多かったかな。たまに上手く行く場合も笑い話の様な。オチがあると言うか、コメディにしても行けるくらい。
一瞬西洋版落語かな?と思えるものも。
 まぁ頭を休めるのにちょうどいいミステリSSでした。こんな風に多種多様で一定以上の質を提供し続けられるのって、さりげなく能力要求されるわけだけど、さすがだよね。
(で、どこで読んだのか、中に一本読んだ事のある作品が混じってて、私どこでヒッチコックなんか読んだっけ?と不思議に思う。ミステリの定番として紹介されてたのかな?)
十三角関係

 山田風太郎。
割と長編ばかり読んで来たので、今度も構えたけど、良かった、普通の大きさの本だ。(まぁ字は小さ目だけど。)

 あらすじは知らずに借りてるんですが、まぁ不思議な感じで話が進む。
なんぞシリーズ探偵ものの、最初の話っぽい事をどこかで読んだんですが、その探偵、予想を覆すお人でした。
 所謂ハードボイルドや正統派ハンサムや、おおよそ『主人公ルックス』してないにも程があるわけですわ。
太っちょおじさん。…医者で人格者ですけどね。
描写があまりなもんで。(初登場で飲んだくれてるとか、もう。)
 まぁそれでも清濁併せ持つ感じでしょうか、風俗街に迷い込んで来た女子高生を、知り合いの女性の所まで案内をする。
そうするととんでもない凄惨な形でその女性は殺されている―こうして事件は始まります。
 その女性はバーだのキャバレーだの複数の店を経営する凄腕美人ママなのですが、彼女について、お店の女の子たちの証言が始まります。
 それに合わせて一人称を章毎に変えているのですが、古い小説でこのパターンは余り見た事がなかったので、俄然面白く。
 また変わったシーンを持ってくるなぁと言うエンタメ性も良かった。『嘘倶楽部』とかありそうだし、使い方が上手い。
医者先生、手管に長け過ぎている。

 そして容疑者等は面白い様にわずかな時間の間に何人もいると言うのがこの作品の醍醐味。後々その関係のなさそうな人たちがここまでかと言わんばかりに己の事情のために動く時、蜘蛛の糸の様に複雑な事件を起こすのだなぁとストーリー展開には感心しました。
はぁー、これはまた見事な図だな。
 何せ作者の筆致が心強く、グイグイと読ませます。
 登場人物たちの心情は然る事ながら、ラストのどんでん返しにも似た衝撃の事実が、また最後まで手を抜かずにタイトルに集約される『関係』を語り尽くしてくれているし。タイトル上手いよなぁ、言葉の選び方と言うか。
 
 山田風太郎と言えば歴史、時代小説のイメージでしたが、そもそもそちらも読んだ事がなかったので、一気にミステリー作家と覚え込んだ一冊となりました。
面白かった。
神様ゲーム

 あ、この独特の装丁はミステリーランドのか…?(リンク画像とは違うハードカバーで読んだ。)
そう、分厚さの割には開くと文字も大きく間が広く、あっという間に読めちゃう、かつて少年少女だった大人と子供たちのためのシリーズ。お手軽に、しかもそれでいて上質なものが多くて結構好きだわ。

 さて、ぶっちゃけて言うとこの神様ゲーム、投げっぱなしで終っています。
ラスト…衝撃過ぎるだろ、驚かしゃぁいいってもんじゃないぞ。もっと、ほら、ないの?
根本的な所を謎は謎のままで終らせる代わりに、オチに思いも寄らぬ幕引きを持ってきたと言う気さえする。
 しかし。
そこに至るまで、ラスト数枚までは確かにハラハラドキドキしたのです。
 特にトリックが秀逸とか、動機がリアルとか、そう言う部分では何も感じる事がないのですが、まずは設定かなぁ。
転校生が、「自分は実は神様なんだ」と、全知全能の神である事を主人公にバラすのです。
 これ、普通ならパーフェクト系少年を思い浮かべる所なんですが、ここでは皆に馴染もうとしない、地味で暗い男の子でしかない。
ははぁ、注目を浴びようとしてありがちな嘘を言ってるな、と主人公もムキになって少年の言葉の矛盾を突こうとするのですが、まぁ口が達者で聞いていてやり込められる事がない。
 しかも実際に、全知全能だった―いや、マジで。
ここらでもう完全なるフィクションですよね。
 これ自体にトリックがあるのかと思いきや、そんな事なく、少年には調べなくても普通に犯人は解るし、天罰を当ててくれと言われれば当てられる…と完全千里眼&この世は神様の思い通り。
 いや、もう、神とか宇宙人とか、本気でその存在出してくるなら反則もいい所なんですが…。
 主人公も最初は相手の法螺に付き合っている、ゲームのつもりだったのに、いつの間にか信じざる得ない状況で、猫殺しや人殺しの犯人に天罰を!と願うのですが、それで死んだのはまさかの―?と、もうここら辺から完全ホラー展開に。
す、推理ものじゃなかった。ああ、ミステリーってまぁレーベルは確かに偽りないな。
死に方とかまた結構えげつないんですが…。

 まぁこの有り得ない動機や、主人公が10歳と言う設定の割に、好むものや反対にさめた物の考え方とか、ちょっと所々でバランスがおかしい気がして、物語にどっぷりとは嵌れず。フィクションを現実の様になぞる読書感はなく、むしろそれ用に作られた舞台や見世物を眺めている感じがしました。
その上で、奇妙な空気感や不気味さを楽しむ本、かな。
 ラスト以外は全編不穏な運び方が上手いです。日常がグラデーションに蝕まれて行く状況が、ひたすら怖い。
世にも奇妙な…とかで行けそうなストーリーでした。あ、これホラーとして考えると結構面白いわ。

 この『推理小説と思っていたら違った』時の文句たらたら感は何なんだろうね。見たかったのはそれじゃない、って一方的な読者なんだけど、実は作品自体は視点を変えれば面白味が全く違うと言うもの、多かったりします。個人の感想だから思った通りに書き留めるけどさ…どんだけカテゴライズやレッテル、思い込みに侵されてるのやら。(しかしその分上手く騙される確率も高く、どんでん返し展開が効果的な受け手だとも思う。)
まぁ少なくとも投げっぱなし謎系はスッキリしないと言う意味で好みじゃないんだろうな。
 自分一人の中でもこんなに本の面白さについて揺れ動くのに、個人個人で感想や点数なんて違って当たり前だなぁと思う次第でありました。本は結局味わってみなきゃ、解らない。