元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
自殺予定日 Scheduled Suicide Day

 読んですぐに引き込まれました。
あらすじから面白そうだったんですが、細かい設定はおいといて、ぐんぐん読ませる流れがある。

 主人公は中の下の女子高生。
小さい頃に母親を亡くし、愛する父親は再婚を。
当然継母などに懐きはしないんだけど、再婚してすぐに父親が無くなると言う、今や他人の継母と暮らしている。
 しかし継母の些細な行動が鼻に付き、父親の生命保険や事業の乗っ取りを企まれ、父は継母に殺されたのではないかと疑いを持つ主人公。(多分誤解だと思うんですけど。そこまでの描写だとそんなに怪しいもんでもないしなぁ。)
勿論証拠も何もないので警察ではお払い箱。
 とうとう主人公は遺書に『継母が父を殺した』と糾弾して死ねば疑ってもらえる。嫌がらせに終わっても復讐出来ると考え、自殺を企みます。(払う代償も大きいし、狙い通りいくのか怪しいもんだが。)

 まぁ、自殺までの流れはどうあれ、とある田舎の山の中で首を吊ろうとすると、いきなり青年にタックルで自殺を阻止される。それも、同情で可哀想だとかでなく、「勝手に死なれて自殺の名所と呼ばれる土地の人の身にもなれ!人に迷惑かけて死ぬな!」と怒られ―。
 うん、正論。まぁただ、死んで自分の身は片付けられないから、誰かの迷惑にならない死なんて、なかなか出来るもんじゃないんだよねぇ…。
(自分でボート買って、太平洋の真ん中で身投げするくらいか?しかも自分を探す様な係累が全くいない前提で。将来的に死体が流れ着いたらごめんなさいだけど。)

 で、主人公が流れで自殺しない様に見張る青年は、話を聞き、「じゃあ証拠を見つけようぜ」となる―。
面白そう。
 青年は上手い事「見つかるまでやれ」と言い含めようとしたけど、主人公は待ってられるかと期限を一週間と決めます。
これがタイトルの『自殺予定日』。
 ここで、青年が幽霊だった事が解り、そこだけちょっとがくっと来たけど。出来れば生身シチュエーションが良かったな。(これについては後々すごく納得の行く終わり方になるので良しとする。)
 ただ、幽霊が故に死についての説教も効くし、ついて行く事は出来ないので、知恵は貸すけど行動は主人公しか出来ないと言う縛りは○。
 実際に主人公は、放任されているのを良い事に、夏休みを友人と旅行に行くと偽って、この片田舎のホテルに泊まり、一日一日継母の留守中を狙って帰っては家の中で証拠を探すのです。
幽霊青年のアドバイスに従って、PCを解析したり、ばれない様な変身をしてみたり―。
 そうこうしている間に、主人公は、友人たちとももめていたりと色々八方ふさがり気味なのですが、幽霊青年の容赦ない毒舌(いや正論なんですが)でべこべこにへこまされつつも、ちょっとは考えるきっかけを得ます。
そして探していた証拠がとうとう―?!

 そこからは一気に解決に至るわけですが、想像していたよりも素直で、綺麗で、優しい物語でした。
このタイトルからしてもっとひねくれた様な物語かと思っていたけど…。(優しすぎて流れが多少ご都合に思えなくもないけど、変にとんがった物語よりこっちの方が好きだわ。)
 タイトルにはWミーニングがあったのかな?

 分量の割にすぐに読めてしまいますし、複雑な話でもなくすっきりと。
構えずに読める優しいミステリーでした。
第三の時効

 何これ、面白い。
どうやらシリーズ物の第一弾のようで、刑事ものです。
短編連作なのですが、お話の登場人物は大体続いていて、某警察の某課…というのがメインですね。
 しかしこれ、各班長キャラたちやその上司やら部下が立っていて、非常に味がある。
どの人も主人公にしていけるだけの個性的、かつ凄い解決を見せてくれるので、いちいち短編一本一本が豪華すぎます。
毎回手抜き無しのTVシリーズみたいなんです。
しかも必ず毎回唸らせるものがあるとか、凄すぎない?
 タイトルの時効の話もそうですが、手口や、因果、必ずテーマがありつつ、思いもよらぬオチが待っている。
難を言えばやはり舞台が警察とは言え、そんな事案が良く転がっているもんだと言うイベント過多具合?
 や、事件は解るんですけど、人との繋がりや裏切り等、濃度濃過ぎでかなぁ、と。
名探偵のある所殺人あり、みたいなやつ。
ここら辺同一登場人物ものの永遠のテーマですわなぁ。
 シリーズ物という事は続きがあるという事で、そんなに推理小説はがっつくジャンルでもないのですが、普通の作品としても読みごたえがあるので、機会があれば続きも良いかなと思います。
連続殺人鬼カエル男

 蛙のせいか、『ミュージアム』を思い出してしまう…。

 さて、意外に物語はシリアルキラー的なイメージよりも、淡々とした別々の殺人が、結果連続殺人になっている思えて不思議な感じ。(あくまでも作中は連続殺人の話です。読み手の感じ方の話。)
何と言うか、被害者に繋がりや共通点が見えないのね。犯人は確かに同一人物だろうけど、狙っているように見えないので怨恨とか、陰惨なものを感じない。
(後々ああ、連続殺人に見せかけたあれか…と言うこの雰囲気が解る仕立てではあるんだけど。)
 むしろ、グロ…と言うよりも暴力描写がメインっぽくてちょっと嫌だったな。
いや、死体は勿論グロなんですが、そこよりも生きている人間同士の暴力が詳細かつ丹念に(なぜそこまでページを割くんだと言うくらいに)書かれている。
おかげで肝心の事件の解ける様とか、殺人鬼の方の話よりも暴力沙汰ばかり記憶に残る。
 うーん、書きたいのは何よりそこなんだろうかと思えるくらいの勢いと配分だと思っちゃったわ。
 特に警察が暴徒に襲われるシーンと、犯人と主人公刑事のガチバトルシーン。
痛いなぁ、痛い。
 殺陣を文章で説明するかくらいの書き込み密度なんで、逆にその密度を事件の解ける流れや、主人公の推理、ひらめいた過程などミステリー部分に使って欲しかった。アクションシーン以外は割とさらっと流れてるからね。

 そして分かり易いほどのミスリードで犯人を描いてる部分は、犯人が逮捕されてからもどんでん返しが来るだろうなと言う予測を裏切らずきちんとどんでん返し在り。
どんでん返し前までも普通にハラハラしつつ頁は繰れますし、むしろ分かり易さの意味で褒めてるつもり。
 叙述トリックと言い、ミステリー好きの読者が想像するだろう所に落ち着く部分は、意外性はなくとも安心して読める、それでも読ませる構成だと思った。
―のだけど、これ、もっと入れ子細工のお話でした。
さらに、その先があった。
 …うーん、確かにそれでようやく思いも寄らぬところに落とし込めるんだけど、正直この手前で止めてた方が、新しさはないものの、綺麗に終わった気がする。
だって、そこまでの入れ子犯罪…可能性、すごく低くならない?ちょっと無理な流れかなぁ…なんて。
 人によると思うけど、ラストのラストは、私は無しでも良かったかなぁと思った。
ただ、締めのオチ自体の皮肉さはニヤリと出来るけどね。
 総じて読み易く、一気に楽しめる一冊だと思います。
うまい犯罪、しゃれた殺人

 サブタイトルでヒッチコックの名が出ていたので。
(て言うより実際ヒッチコックのやつなのか。)このタイトルはまた実にそそる巧さだ。
そう、私が大体ミステリーに求めるのは、上手い犯罪、確かにそう。しゃれてるのは…別にどうでもいいけど、唸らされるような、鮮やかな手口を見せて欲しい!
 で、これはTVドラマの脚本…あるいは、TVドラマ化されました、的なやつなのかな。
短編ずらずらと、そしてミステリー。

 中身ですが、手口が上手い…と言うより奇妙な偶然によって失敗したりする犯行の話が多かったかな。たまに上手く行く場合も笑い話の様な。オチがあると言うか、コメディにしても行けるくらい。
一瞬西洋版落語かな?と思えるものも。
 まぁ頭を休めるのにちょうどいいミステリSSでした。こんな風に多種多様で一定以上の質を提供し続けられるのって、さりげなく能力要求されるわけだけど、さすがだよね。
(で、どこで読んだのか、中に一本読んだ事のある作品が混じってて、私どこでヒッチコックなんか読んだっけ?と不思議に思う。ミステリの定番として紹介されてたのかな?)
十三角関係

 山田風太郎。
割と長編ばかり読んで来たので、今度も構えたけど、良かった、普通の大きさの本だ。(まぁ字は小さ目だけど。)

 あらすじは知らずに借りてるんですが、まぁ不思議な感じで話が進む。
なんぞシリーズ探偵ものの、最初の話っぽい事をどこかで読んだんですが、その探偵、予想を覆すお人でした。
 所謂ハードボイルドや正統派ハンサムや、おおよそ『主人公ルックス』してないにも程があるわけですわ。
太っちょおじさん。…医者で人格者ですけどね。
描写があまりなもんで。(初登場で飲んだくれてるとか、もう。)
 まぁそれでも清濁併せ持つ感じでしょうか、風俗街に迷い込んで来た女子高生を、知り合いの女性の所まで案内をする。
そうするととんでもない凄惨な形でその女性は殺されている―こうして事件は始まります。
 その女性はバーだのキャバレーだの複数の店を経営する凄腕美人ママなのですが、彼女について、お店の女の子たちの証言が始まります。
 それに合わせて一人称を章毎に変えているのですが、古い小説でこのパターンは余り見た事がなかったので、俄然面白く。
 また変わったシーンを持ってくるなぁと言うエンタメ性も良かった。『嘘倶楽部』とかありそうだし、使い方が上手い。
医者先生、手管に長け過ぎている。

 そして容疑者等は面白い様にわずかな時間の間に何人もいると言うのがこの作品の醍醐味。後々その関係のなさそうな人たちがここまでかと言わんばかりに己の事情のために動く時、蜘蛛の糸の様に複雑な事件を起こすのだなぁとストーリー展開には感心しました。
はぁー、これはまた見事な図だな。
 何せ作者の筆致が心強く、グイグイと読ませます。
 登場人物たちの心情は然る事ながら、ラストのどんでん返しにも似た衝撃の事実が、また最後まで手を抜かずにタイトルに集約される『関係』を語り尽くしてくれているし。タイトル上手いよなぁ、言葉の選び方と言うか。
 
 山田風太郎と言えば歴史、時代小説のイメージでしたが、そもそもそちらも読んだ事がなかったので、一気にミステリー作家と覚え込んだ一冊となりました。
面白かった。