元モンスター描き。 諸々の感想と近況ブログです。   since2005.05.15
読書の夏
 読書感想文とかでなく。 

 さぁて、今年も夏休みです。
大体行きたい所が無ければ家で本祭り開催予定の私。
昔と違ってここまで暑くなると外で遊ぶとか考えられんようになってきてるわ…。
 ま、今年も本屋で気になる本片っ端から漁ってカードを切るぜ!!この時ばかりは値段見ずにガンガン本を買っちゃう!(本屋にカゴが置いてないのが不便です。)
 ―という事で3~5日位ブログはお休み~。
バベル九朔

 万城目さんの。好きだわー。
いつもの様に緩くておかしな話かと思いきや、確かに奇想天外の話なんだけど…ちょっと固い??
雰囲気の話なんで、構成に手慣れてきたからファニーさが減ったとか、経験の分だけ失っていく何かの様なものではないと信じたいが。(『風太郎』の時よりは大分おかしな話に戻ってきた気はする。)

 相変わらずタイトルだけでは予想もつかない話なので、どんなあらすじかと言うと、小説家を目指し汲々している主人公は、祖父の遺産の雑居ビルの管理人をしながら暮らしている。そのビルの名前が『バベル九朔』。
 しかしある日、カラスの様に濡れ羽色の髪、ぬめっとした光沢の黒ドレス、反して光るように白い胸の谷間を持つ美女が彼の前に現れ―なんだかよくわからないが襲ってくる。
どうも彼女はバベルの扉を探しているらしいのだが、そんなもの、主人公は露ほども知らない。
しかしどうやら祖父が残した絵画から、妙な空間に行ける様で―。
 と、バベルにはこの不思議な絵の向こうの世界と言う意味も含まれています。その絵の中には正しくバベルの様な塔がそびえ立ち、そこには謎の少女、そして死んだはずの祖父が居る??
謎、謎、謎で始まります。

 いやぁ、基本的に主人公の敵味方が割と最後まではっきりしませんので、ドキドキし通しでした。
もう嘘や偽りの姿オンパレードで、罠もやらしいやり口だらけ。
 基本的に奇想天外な話は話なんですが、キャラが少なめのせいか、万城目さん特有の軽妙な感じはしませんでした。(鼻の話はなんだか相変わらずだなぁと思えたけど。)
ラストに通じる部分はむしろ重いくらい。
 成程と思える解決方法だけど、主人公一人だけが結構な代償を払っている気がするから、余計に。
 ある意味希望はあれど怖い終わり方なんだよね…。(いや、しかし成功してくれる予感は抱ける位、主人公に信頼は出来た。)

 ちなみに些細な事ですが、カラスが随分と目の敵にされている扱いで、カラス好きとしては複雑な気持ちの序盤でしたが、そこには確かに畏怖の念が含まれており、ラストはなかなかの扱いでした。
 カラスが太陽と言うキーワードに繋がる辺り、八咫烏を思い浮かべたり、あと本の中で湖の民の話が混じって来るんですが、え、『しゅららぼん』とリンクしてるのかな?この本の世界観。
 久しぶりに万城目さんの奇妙な小説を読めてご満悦。
あっという間に読了。
家族幻想 「ひきこもり」から問う

 引きこもり要素は自分も二つの点で持ち合わせていると思う。
体調不良なんかでベッドの中で過ごしている時期、全然苦にも思わず冬眠ライフをこなしていた事。
もう一つが、ある日いきなり、儘ならず外へ出られなくなる。そんなビジョンが割と鮮明に思い浮かべる事が出来るくらいには心の中の危うさが自覚出来ている事。

 引きこもりではまず『外に出たくても出れない』、自分で行動をコントロール出来ないと言う点が何よりも問題になってきます。(となると出ようと思えば出れる人が引き籠もるのは単にインドア派と言う事なんだろうか?外との接点を欲しないと言うか。)
この本に出てくるのは別に開き直って、或いは好きで引き籠もっているわけでなく、社会に出たい、あるいは出なくてはと望む人たちの話です。
 解るなぁ…。外との関わりが煩わしく逃げたいと思う反面、離れすぎても不安になる。望む距離感の二反律が同時に自分の中にあって、身動き取れなくなる感じ。
そして現実問題としての生活資金の問題からも逃れられません。

 筆者が長年取材を続けている人たちは、読んでいると苦しくなるくらいに、真面目で、融通が利かず、常識や社会の枠に囚われている人たちです。社会との接点に対する希求も持ち合わせ―いや、恐らくこれがむしろ平均以上に強いため、ギャップに苦しんでいるように思えます。怒りも毒も、求めるが故に比例して噴出し、発散、表現出来る方法自体も絞られてくる。(とある医者は『出来る事が少なくなっていく病』と評します。)
それと同時に、引き籠もっている自分を誰よりも恥ずかしいと思っているのが自分、と言う人たちです。
 自分が許せない。これもある意味プライドの話なんでしょうが、自分自身の期待を裏切る自分、或いは他者に迷惑をかける申し訳なさ。引きこもりの人は多かれ少なかれ、この思いも抱えていると思います。
 ある意味人はどこかで鈍感にならなきゃ流せないものってあると思う。

 筆者の分析が深く、かつ個人的な思い入れがあるようで、時に上滑りや場合によっては芝居がかって聞こえる時もあるのだけど、それだけ取材対象に本気で付き合ってきたんだと解ります。
 こういう良いも悪いも、近くも遠くも、バランスの取れてない意見こそ、生々しい現場感があるんだよね。ルポライターとしてはいただけないんだろうけど、真剣さは伝わってくる。
それでも分かり合えずに取材相手とトラブルになったり、その流れも含めて、『ひきこもり』を分析しようとしている姿勢はこの本の中の全編に渡っていると思う。
 ただ単純にこの本の中に出てくる各個人の事だと、普通に性格的にどうよ…とかその考え方は…と文句も出て来ますし、全面的養護が出来るかと言われれば出来ません。明日は我が身と言う問題であっても、いや、だからこそなのか、前述の様に『自分を責める自分』と言う枠がある以上、叱咤の思いは必ず出て来るでしょう。そう思われる事の苦しさを理解しつつも、簡単に容認出来ないのです。
 カウンセラーは理解をしても共感してはいけないと言う話を思い出しました。私は同じ所で溺れる側の人間だわ。
まさしく同一に陥りながら『考えさせられる本』です。(なお『どうすれば問題が解消されるか』を著者が訪ねて回った時、それは難しい、となったのが推して知るべし。)
 
 他、親側の話、或いは親がいなくなったら、女性の引き籠もり等テーマ別に章が続きます。
個人的に割と躓く種はそこら辺に転がっていると思う、怖い問題だと思います。
学問のしくみ事典 あらゆる「学」の歴史とつながりがわかる

 本当に事典。これは読むとかでなく、必要な所を開く感じかなぁ。
どの学問はどこから派生して、誰が提唱して影響を受けて―と。
本気で読み物として読んだらめちゃくちゃ時間かかるよ。普通に事典を読破…とかしないもんね。
 よくこういう面白い目線で事典を作ったなと思えた一冊。お役立ち。
祝山

 呪山じゃないんだぁ、と久しぶりに加門さんの本。体験、実話じゃないし、書下ろしらしいし…と地雷は避けたつもりなんだけど、『実話が基』とか匂わせてるから、ちょっと鼻に付く部分は残る。
加門さんの作品、昔のやつは面白く読めてたんだけどなぁ…。何だろうね。
 ストーリーとしては愚かな自己責任の肝試し、そしてそれを冷静に諫める霊感のあるアタクシ、と言う分かり易いもので新鮮味はないんだけど、畳みかける怪異も、最初は偶然、何でも祟りに結び付けるなと思うものの、ここまで続くと気味が悪くなっていく様子がよく表現されていて。
こう言う所で文章力や筆致に確かなものがあるから感覚が合わなくなってきていてもつい読んじゃうんだよなぁ。
 上手いと思ったのは祝山の呪山にせずに別方向へ着地した部分。ああ、読み側に注目するのか。綺麗に嵌った。

 あとまぁ、登場人物が全員、霊感ある側もない側も枠が狭い感じで、他者に対しての決めつけが多くその意味ではオカルトと別の息苦しさを感じた。
 でも自業自得系の話は確かに読んでいてスッキリするもんで、肝試しなどとやっている人間がそれ見た事か、の穴に落ちていく様子は黒い感情が満たされる。
おせっかいや好奇心を出した主人公までもれなく、と言うのが得体の知れないものの感覚なんでしょうが、まぁ首突っ込んで来たら怪異側としても手ぇ出すくらいするわな。
それに首突っ込まないとこういう話は進まないし。

 シンプルな素材をしっかりとした味付けにした作品。悪くなかった。